日本の、伝える努力の軽視と不足

日本という国、というよりも日本社会が宿痾として抱える交渉、抗議ベタ。それは謙虚なのではなく、異なる文化に対して伝える努力の軽視と不足だ。

空気を読んで言外の意を敏感に察する日本とは異なり、「交渉するための言語」たるヨーロッパ言語のカルチャーでは、声を上げ、真正面から抗議し闘って初めて、相手からの敬意を得る。敬意とは勝ち取るものなのだ。それゆえに、真正面から原爆の凄惨せいさんを訴え知らしめ、毅然と抗議するという「気まずい」作業を避ける時代の長かった曖昧な日本は、今回のバーベンハイマー事件で米国の一般Xユーザから、ある意味「受けるべき扱いを受けた」のだとも感じられた。

現職の米国大統領として歴代で初めて広島を訪問したバラク・オバマが、「空から死が落ちてきて、世界が変わった」と演説したのは2016年5月のことだ。「道義」「道徳的」との言葉を使った詩的な演説は聞く者の胸を打ち、被爆者を抱きかかえる姿を収めた写真とともに世界中へ「核兵器を廃絶する(かもしれない)平和な世界構築へ向けた画期的な一歩」との印象を届けたが、米国の核使用に対する謝罪はなかった。

当時、英BBCは「確かにその演説は高邁な理想にあふれてはいたが、世界最大級の核兵器備蓄量を誇る国の最高司令官であることには変わりないと指摘する人もいるだろう。しかもその核兵器の備えを刷新するため、数十億ドルの予算措置を承認した当人でもあるのだ。大統領からわずか数列後ろにはいつものように、核攻撃命令の暗号を収めたブリーフケースを手に、将校が待機していた」と、英国という第三者の立場から皮肉たっぷりな言葉を残している。

「世界唯一の戦争被爆国」と「世界唯一の核兵器使用国」

オバマの歴史的な広島訪問から7年。核軍縮をライフワークとする広島選出の岸田首相が、自身の政治テーマをきちんと表舞台で世界の報道に乗せていくことに好感する。

昨年、国連で発表した「ヒロシマ・アクション・プラン」やG7広島サミットでの「広島ビジョン」など、具体的な約束を伴っていないとの批判はもっともであるにせよ、明確な言語化は世界にメッセージを伝えるための必要条件だ。ロシアによって核の威嚇を受けるウクライナからゼレンスキー大統領が広島原爆資料館を訪れ、芳名録に記帳した姿もまた、国外へ「非核」メッセージを発信することに成功しただろう。

昨年来のロシアのウクライナ侵攻で、核兵器はまた世界の大きな関心の中にある。その中で今回のあまりにポップなバーベンハイマー事件が炙り出したものは、「世界唯一の戦争被爆国」日本が長らく「甘やかした」がゆえに核兵器使用の本当の結末に対して無知すぎた、「世界唯一の核兵器使用国」アメリカの姿、だったかもしれない。

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