占領軍上陸前、「良家の子女」への避難勧告
太平洋の激戦を戦ってきた実戦部隊である米第八軍、第一陣の上陸先となった神奈川県では、8月24日、政府と大本営に横浜市を加えて折衝連絡委員会をつくり、「平和的進駐」のための準備にまい進した。ダグラス・マッカーサーの厚木到着予定日の4日前のことである(実際の到着は台風のため2日遅れ、30日となった)。マッカーサーは到着後、横浜に入り税関ビルに米太平洋陸軍の総司令部を置いた。
それ以前、8月15日の天皇の終戦詔勅直後、神奈川県知事・藤原孝夫は、県庁の女性職員に3カ月分の給与を渡した上で解雇し、疎開促進を命じた(*1)。その後、占領軍の最初の上陸場所と予想される神奈川県では人々の不安が増し、「男は全部逮捕され、青年は去勢される。女はみんな強姦だ‼」という流言飛語が拡がった。
横浜市長・半井清は藤原県知事と渡辺次郎警察部長と相談し、占領軍の上陸前に「良家の子女」をしばらく避難させたほうがよいという勧告を区長を通じ各町内会へ流した。同時に、渡辺警察部長は、逗子や鎌倉方面の「良家の子女」、海軍関係の留守家族などはすべて退去するように命令を出している(*2)。
女子への心得「貞操を守る為には死を決して抵抗」
海兵隊が進駐した横須賀では、8月30日午前11時に米兵2人による侵入と母子への強姦、午後6時には米兵2人(1人は見張り)による強姦が通報され、翌31日には横浜市や鎌倉市での強盗、強姦の報告が神奈川県知事から内務大臣山崎巌宛てに出されている(*3)(千葉県館山市でも第八軍海軍部隊兵による2件の強姦が報告されている)。
神奈川県警察部は、「婦女子強姦予防」として、独り歩きや夜間の外出の厳禁や戸締まりの厳を新聞に掲載するとともに、町内会へ回覧を回すなどしている。そのなかで、女子の心得は「貞操ヲ守ル為ニハ死ヲ決シテ抵抗シ、止ムヲ得ザレバ相手ニ危害ヲ加ヘルモ正当防衛トシテ許サルベキコトヲ納得セシムルコト」としながら、対策として「米兵慰安所ヲ急設スルコト」を打ち出している(*4)。