回収されていく外国のお金(ドルなど)と、ばらまかれ続ける日本のお金(円)では、どちらに希少価値が出てくるかは明らかだ。モノやサービスと同様、供給過多になれば、値段、価値は下落する。これが今後の円下落の最大原因となろう。

現在マーケットで話題になるのは日米金利差であるが、今後はこの「回収されているお金」と「ばらまかれ続けるお金」の差が、より重要な要因になると思っている。

インフレ制御能力を失った日銀が「円の紙くず化」を招く

かつて同じようにインフレに苦しんだ時期がある。1979年、止まらぬインフレに業を煮やしたかつてのFRB議長のポール・ボルカー氏は金利ではなく、マネーサプライの量を政策目標に換えた。

ボルカーのサタデイ・ナイトスペシャル(ボルカーショック)と呼ばれる。世の中に、じゃぶじゃぶになったお金がインフレの元凶だと看破したからだ。その結果、10年金利は20%まで上昇した。

私は米国をはじめ、世界が、今後同じような政策を取らざるを得なくなると思っている。当時よりばらまかれたお金の量が格段に多く、このお金の回収をしないことにはインフレは収まらないからだ。

日本は、異次元の金融緩和政策の中で、他国に比し大量のお金がばらまかれた。結果、日本円はますます価値が希薄化し、インフレはますます強烈になっていくと考える。

また今後、為替は「お金が回収されていく国の通貨」と「お金がばらまく国の通貨(=円)」の対比で決まっていくだろう。インフレ制御能力を失った日銀が今現在、円安を異常に怖がる理由だ。インフレを抑えきれなくなった日銀の信用はいずれ失墜し、円は紙くず化するというプロセスを考えている。

令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行った(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

植田総裁の大博打は成功するのか

2022年7月、植田総裁は日経新聞「経済教室」で、「難しいのは、長期金利コントロールは微調整に向かない仕組みだという点である。金利上限を小幅に引き上げれば、次の引き上げが予想されて一段と大量の国債売りを招く可能性がある」と書いている。

このリスクを認識していたがゆえに植田総裁は、今回上限キャップ0.75%ではなく、やむを得ず1%の決断したのだと思う。しかしこれで、植田総裁が危惧したリスクは回避できるのか? これこそ植田総裁が打った大博打ばくちだが、私は明らかにNOだと思う。

長期金利は近々、上限の「1%」で定着することになるだろう。日銀が自ら設定した「危険域」だ。今後、日本のインフレは加速すると思っていればなおさらだ。日銀は、自らを含め、多くの金融機関が債務超過に陥る1%ラインを呼び込んでしまったのだと思う。