もしくは、今後国内でインフレが加速したときに(金利上昇・債券価格下落の要因になる)、長期金利の上限0.5%を死守するため日銀は国債を購入する必要があるが、購入量をこれ以上増やすことを恐れているのかもしれない。

日銀の国債購入量は限界に近づいているはずだ。岸田文雄首相が最近、さかんに増税に触れるようになったのは、日銀から「もう国債を買い続けることはできない」と泣きが入ったせいとも考えられる。

しかし7月28日のアナウンスメントで、日銀は「危険域」と考えられる長期金利を1%に自ら誘導し、今後は張り付かせることになると思う。それは日本経済を自ら追いつめることを意味する。

これは円の大暴落に向かってのGoサインだとも思う。いよいよ「Xデイ」への第1歩を、日銀はいやいやながら踏み出してしまったということだ。

大量の100ドル札の上に一枚の1万円札
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「YCCの柔軟化」で日銀の政策変更期待が消滅

日銀のアナウンス直後、ドル/円は一時、1ドル=138.07円を付けた後、円安へと方向転換し、141.17円でNY市場は終了。今週に入って再び143円台に戻った。

日銀にできることは、マイナス金利の解除くらいしかない。これは大きな政策転換であるかのように見えるが「緩和政策の転換」などと言える代物ではない。

マイナス金利政策とは日銀当座預金にマイナス金利を適用するものだが、500兆円弱のうちのたったの30兆円前後にしか適用されていないからだ。「解除」という言葉を使って、大きなインパクトを与えたくとも、実質的にはなんの意味もない。

先述の通り、決定会合後の為替市場はすでに「長期金利1%、短期金利ゼロ%」を織り込んでしまった以上、円高を誘導させる方法はもう何も残っていない。今回の「YCCの柔軟化」によって、「日銀の政策変更期待」の円高要因が消滅したと言っていい。

日銀には有効な手段が残されていない

より根本的な円安進行の理由は、やはりファンダメンタルズである。

今回のアナウンスメントで重要なことは、金融緩和の基本路線が維持されたことだ。すなわち日銀は今後とも相当量の国債の買いオペを継続すること。国債オペとは日銀が国債を購入して、その「代わり金」を売却金融機関の日銀当座預金に振り込むことだ。

今後とも日銀は市中にお金をバラマキ続けることを意味する。しかも未来永劫えいごうに、だ。そうしないと政府が資金繰り倒産(=デフォルト)を起こしてしまう。日銀にはもう有効な手段が残されていないのである。

一方、米連邦準備制度理事会(FRB)を含めた世界の中央銀行は「バラマキ過ぎたお金の回収」を開始している。もちろん日銀を除く中銀だ。これも強烈な円安要因だ。