ちなみに7月30日の日経新聞朝刊によると、ユーロ圏の(民間)銀行全体の保有債券の正味の含み損は、730億ユーロ(約11兆円)だそうだ。日銀はたった1%の金利上昇でこれ程巨額の評価損を出すのだから、いかに脆弱ぜいじゃくな財務状態かがわかるだろう。

地銀も、生保会社も共倒れ…

さらに地銀や生保も長期金利が1%まで上昇するとかなり苦しくなると想像できる。

主要15社の生保合計の国内の公社債は、2022年9月末時点で約5兆5600億円の含み益があった。それが一転して12月末には約3600億円の含み損となった。0.25%の金利上昇で約6兆円も評価額が下落したのだから、1%まで上昇すると単純計算で約12兆円もの評価損となる。

地銀もこの3カ月間で、国債保有評価損が1兆4600億円に倍増した。長期金利が1%になれば3兆円の評価損と言うこと。これは地銀にとって決して小さな数字ではない。債務超過の可能性大だ。

たしかにFRBも債務超過の話題が上るが、短期政策金利を5.25%に上げ、長期金利が4%に上昇してからの話だ。日本は長期金利が1%に上昇するだけでさまざまな機関が債務超過の状態に陥る。次元が違う。

「債務超過」を甘く見てはいけない

「債務超過など怖くない」とか「簿価会計だから債務超過にはならない」と主張する人がいる。なんと能天気なのかと思う。

民間金融機関や企業が時価会計で債務超過になれば、その銀行や企業から資金が先を争って逃げ出す。リーマン・ショック(2008年)も、シリコンバレー・バンクの破綻(2023年)もしかりだ。時価評価で債務超過とは、資金の引き出しに応ずる資金が足りないことを意味する。返済資金が枯渇する前に他の人より先に資金を引き出そうとするのは世の常だ。

「中央銀行は紙幣を刷れるから、資金繰り倒産はしない。だから大丈夫」と言う人がいる。たしかに資金繰り倒産はしないだろう。しかし日銀の債務超過とは「外資がいつ撤退判断をしてもおかしくない」という域に突入することを意味する。

私は今まで、ハイパーインフレ発生の最大のリスクは「米銀の日銀当座預金の閉鎖」(=日本からの撤退)だと言ってきた。撤退は純資産がある時はまずないだろうが、債務超過に陥った後は、いつでも起こりうる。ただ、いつ起こるかはわからない。外資首脳陣がどう判断するかにかかっている。彼らの頭の中まで見通せないからだ。

ドル、円、ユーロなどの通貨記号
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黒田前総裁、植田総裁も、その怖さを知っている

「中央銀行が債務超過でも大丈夫」という場合、いくつか条件がある。一つは「債務超過が一時的と市場が判断した時」だが、「一時的ではない」と判断すれば外資はいつでも日本から撤退する。株主保護のためだ。

それは円がドルとの交換性を失いローカル通貨化(紙くず)することを意味する。日銀当座預金を閉鎖すれば外資は円を受け取る手段を喪失する。円を受け取れないのならばドルを邦銀に売ることはあり得ないからだ。