悪事に手を染めてでも上の指示に従ったほうが得

不祥事ふたつ目の根源は、ビッグモーターの粗暴な企業マネジメントを野放しにしてきた監理不在経営です。既に多くのメディアで取り上げられているように、オーナー経営の同社は創業者である兼重宏行社長(7月26日付で辞任)とその長男の宏一副社長(同日辞任)の絶対君主経営の下で、かなりの強権経営がされていたといわれています。

社員全員に配られていた「経営計画書」からも、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある。今、すぐ辞めてください」「指示されたことは考えないで即実行する。上司は部下が実行するまで言い続ける」「経営方針の執行責任を持つ幹部には、目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える」等々、恐ろしいほどの封建的管理がうかがわれます。

これほどの強権経営が成り立っていたのは、上の言うことを聞いて実績を積み重ねれば業界として常識的にはありえないほどの高給を得ることができたからです。以前、同社のホームページにアップされていた採用情報には、「具体的な収入例」として「営業職年収2237万円」「営業職(店長)年収4607万円」「整備士年収946万円」「整備士(工場長)年収1494万円」と記載されていました。まさに“アメとムチ”で社員を意のままに動かしていたことが分かります。

このような常識外の高給をちらつかせることで、悪事に手を染めてでも上の指示に従ったほうが得になってしまっていたことが十分考えられるのです。

写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです

会社法上の「大会社」に対する監理規制の不備

従業員6000人、年商7000億円もの大企業でなぜ、このような非常識経営がまかり通っていたのでしょうか。それはビッグモーターが非上場企業であった、その一点に尽きます。今回の不祥事に関する特別調査委員会の報告書によれば、同社は負債総額の点で会社法上の「大会社」に分類されるとのことです。

しかし非上場で同族の少数株主しか存在しない同社に対し、会社法で義務付けられている監理規制は上場企業に比べ圧倒的に少なく、実質的に取締役会設置でクリアできる内部統制組織の整備義務と、監査役および会計監査人の設置ぐらいのものなのです。

しかも調査書によれば、ビッグモーターでは取締役会が開かれた形跡がなく、監査役は1人しかいない上に月に1、2カ所のわずかな店舗をヒアリング訪問するのみで、およそ業務監査の役割を果たしていたとはいえないレベルであったのです。

従業員も多く、大手損保会社とも年間200億円を超すといわれる莫大な取引があって社会的影響力が大きい同社のような「大会社」に対し、このようなガバナンス不全が放置されていることは由々しき問題です。問題を大きくした要因のひとつに会社法上の「大会社」に対する監理規制の不備があるのではないかという点は、強く問題提起しておきたく思います。