歯車の狂い始めは、修理・整理部門に対する目標設定

この時期の投資に次ぐ投資と人員増加による人件費の激増および在庫負担増で、薄利多売ビジネスだけでは成長曲線を描きにくくなり、同社がとった戦略が修理・整備と保険で稼ぐというものだったのです。保険は中古車販売と抱き合わせでの自賠責保険、任意保険の代理店としての手数料収入だけでなく、大手損保会社への保険仲介の見返りとして大量の事故車両の修理斡旋を受け収益につなげる、というビジネスモデルへの転換でした。

歯車の狂い始めは、修理・整理部門に対する修理1台あたりの工賃と部品粗利の合計への目標設定です。社内では修理1台あたりの工賃と部品粗利の合計を「アット(@)」と呼び、具体的には1台14万円がその最低目標値とされていました。

メカニックガレージで車のエンジンに取り組む自動車整備士
写真=iStock.com/Kunakorn Rassadornyindee
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利用者心理を巧みについた不当修理

そもそも、事故車修理の修理金額に目標を設定するという考え方自体が謎すぎます。修理金額というもの自体、本来傷の状態で決まるものであり、修理請負側が勝手に決められるものではありません。となれば軽微な傷の修理でも目標値に届かせるためには、必要のない修理まで行う必要が生じるわけで、ここに今回の不祥事の構造的な原因の入り口があったといえます。

常識で考えれば、軽微な傷の修理に想定外に高い金額請求があれば、トラブルが発生するという流れもあったでしょう。しかし、それを最小限に抑え不当修理を可能にしたのが、損害保険の利用だったのです。

保険を利用して修理をすれば、基本的に持ち主の腹は痛まないわけで(もちろん後々、保険等級の低下での保険料アップ負担は生じます)、その場はやり過ごされやすいという利用者心理を巧みについたものでもありました。いずれにせよ、事故車修理の金額に目標を設定するような無理が生じた根本原因は、薄利多売ビジネスの行き過ぎた拡大戦略に相違なく、一大不祥事のひとつ目の根源はここにあったといえるのです。