競争社会で苦しむ若者が『人間失格』主人公に共感する
ミヌムサの関係者は次のように語ってくれた。
「古典が再び人気を集めるときは何かトリガーがあるはずだが、『人間失格』の場合はそのようなものがまったく見つからない。同名のドラマが2021年の秋に放送されたが、その前の5月ごろから本は売れ始めていたし、ドラマはあまり注目されなかったうえ、内容も小説と関連性がほとんどなく、その影響とは言い難い。
編集者たちと原因を分析したが明確な理由を探すのが難しかったため『ミステリー』と称するようになった。ただ、発表から70年がたった今も『人間失格』が読者から選ばれているのは、現実の壁の前で挫折する不安定な青年たちに特に深い共感を呼び起こしているためではないかと思われる」
心理カウンセラーのクァク・ソヒョン氏も「韓国の若者が『人間失格』主人公の大庭葉蔵に自分を投影していることが人気の理由ではないか」と分析する。
「社会の期待と基準に応えられないことに起因する大庭葉蔵の内面的な葛藤や苦痛は、今日の韓国の若者たちが直面している現実的困難や彼らが抱く感情と似ている。誠実に努力すれば社会に組み込まれて経済的にも安定していた親世代とは異なり、熾烈な競争社会を生きている20~30代は経済的にも心理的にも主流社会に入ることができない絶望を感じている。これは大庭葉蔵の内面的状況と非常に似ているといえるはずだ。
特に新型コロナ以後、一層増幅した就職不安や社会的疎外感、はみ出すことを恐れる感情が混じり合って、大庭葉蔵と自分を同一視しているのでは」
旅行書や語学本でも日本関連がランクイン
韓国出版界における日本ブームは、旅行書と外国語学習書の分野でさらに目立つ。前出の教保文庫上半期ベストセラーランキング旅行部門では、ベスト10のうちなんと6点が日本のガイドブックだ。ちなみに1位と2位が大阪案内、4位と5位が東京、6位が福岡、7位が北海道だ。
外国語の学習書といえば韓国でも英語が売り上げの中心だが、今年上半期のランキングでは日本語学習書が30位内に7点も含まれている。一時人気を博した中国語が、1点もランキングに入らなかったのとは対照的だ。