歪曲された報告で裁判を争うことに

A社「原告は営業成績が悪く、注意指導しても改善されず、よって解雇は合法である」

筆者「被告の注意指導には殴る、蹴るなどの身体的暴力が含まれており、適切でなかった」

A社「(社内調査した結果)胸元をつかむなど、若干、不適切な言動があったことは認める」


B社「原告は退勤後や休日に会社支給携帯が鳴った際、対応することを了承していたにもかかわらず対応を怠っていた。よって解雇は合法である」

筆者「そのような事実はない。主張を裏付ける証拠として、勤務時間外の労働を強いられる電話対応について問題提起を行った、上司宛てのメールのコピーがある」

B社「……」

2社の例から学べる最大の教訓は、組織内における情報伝達の難しさだ。大きな組織になればなるほど、労働問題の対応は現場ではなく総務部が主体となって対応することになるだろう。

ここで問題なのは、総務部は問題社員の問題行動を直接見たわけではないということだ。よって現場から上がってくる報告を基に総務部は判断を下すわけだが、私が知る限り、労働問題が起きるような企業は、社内ホウレンソウが正常に機能していない。それどころか、歪曲わいきょくされた情報が出荷されている可能性が高い。

その訴えが正確に伝わっているか確認すべき

想像してほしい。今、あなたは会議室で問題社員を指導するため向かい合っている。だが、何を言っても相手の心に響かず、ぬかに釘。あなたは苛立ちを覚え、思わず机をバンッと叩いてしまった。

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話し合い後、あなたは上長へ報告を入れる。結果、ダメ社員の解雇が決まった。めでたしめでたし、と思っていたのも束の間、どうやら会社が訴えられたらしい。きちんと注意指導は行っていたのかと、あなたはヒヤリングを受ける。さて、どう答えるか?

「机を叩きました」「威圧的な態度でした」などと正直に報告するサラリーマンは何人いるのだろうか。そもそも机を叩いたことすら覚えていないケースも考えられるだろう。対して労働者側は、すべての出来事が自分事だ。何が言いたいかというと、個人vs.組織の戦いにおいて、情報戦に分があるのは圧倒的に個人の側だ。そしてこの情報格差が敗因につながる。

企業側に打てる対策があるとすれば、重要な話し合いはボイスレコーダーで録音する癖をつけることだろうか。前回記事でも触れたが、話し合いに複数人を同席させるなどの手抜き対策は打ってはいけない。複数人が同席しようとそれが証拠にならないことを私は身をもって知っている。

極論、サラリーマンが大切にしているのは会社ではない。自分だ。自分の人生だ。それは指導する側の上司とて変わらない。会社に何か訴えたい事情があるとき、それが上司を通じて正確に届いているか、情報がどこかで改竄されていないかを確認することも重要だ。