ファンを育てられれば、値下げしなくても売れる

筆者はユナイテッドアローズに20年以上通っているが、それは懇意にしている販売員の佐藤さんがいるからだ。私の好みのみならず、持っている洋服をほぼ把握してくれている。

暑い日にはそっとペットボトルで冷たい水を出してくれる気遣いが嬉しい。佐藤さんは現在、店長に昇進していて、会員の先行特別割引セールの案内が届く。さらに筆者が好きそうな商品を取り置きしておいてくれる。これまで相当数の友人も紹介した。自分自身をファンと表現してよいだろう。

菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)

加えて、佐藤氏だけが特別というわけではなく、他の従業員のサービスレベルも高い。この企業は数あるセレクトショップの中で顧客接客の上位にランクインするが、その接客指導とビジョン教育の仕組みに定評がある。事業ビジョンに共感を持っている従業員が顧客の共感を呼ぶのだ。

昨今、ベースアイテムの価格もあがりつつあり、なによりバーゲンセールの値引き率が低くなっている。アパレル小売店としての生き残りをかけて値上げは必須条件だろう。最近ではネットでも見せ方を工夫して、値下げせずに売れるようシフトしてきた。

価格支配力を持つには、ファンの育成がコアになる好事例だ。

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