※本稿は、菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
キーエンスの営業利益率は驚異の55.3%
キーエンスは日本屈指の高収益企業(※1)だ。成長率もさることながら、特筆すべきは高収益体質で、売上高営業利益率55.3%は驚嘆に値する。経済産業省の2021年企業活動基本調査速報によると統計上の「業務用機械器具製造業」396社平均営業利益率は2.1%である。
近年、社員の高額な給与が話題になり、時価総額も急上昇している。かつてはマスコミでの露出が極端に少なかったが、『キーエンス解剖』(西岡杏/日経BP)がベストセラーになったので、興味のある方はそちらを参照してほしい。
筆者の顧客がキーエンスによって大きくシェアを奪われていたことがあり、興味を抱いて数名の方にインタビューしたので、それも含めて強みの解説をしていこう。
(※1)2022年3月期売上(連結)7552億円(過去10年CAGR14.2%)。海外売上が特に伸長しており、売上貢献度は59%。営業利益3034億円(過去10年CAGR16.5%、売上高営業利益率55.3%)、当期利益3037億円、ROE14.8%、自己資本比率94.1%。
工場や倉庫などの「現場の長」を重視して営業
同社の理念は「付加価値の創造により、社会に貢献する」である。顧客の潜在的な需要を掘り起こすことに注力しているが、それは顧客が商品スペックを決め、その要求に応える形で対応していたら遅すぎてしまい、付加価値が高まらないという思想がある。
顧客は、工場や物流の現場において、「どうしたら商品品質、コスト、デリバリータイミング、エコ調達のバランスを決められるだろう」といった悩みを抱えて困っている。操業効率に敏感で、このKPIに心を砕いている現場の長だ。
同社はB2B営業の常識である企業本社の購買担当者ではなく、工場・倉庫などの現場を重視して営業している。それは、ここに潜在需要があるからだ。「顧客が欲しいというものはつくらない」とまで言い、顧客の裏の裏にあるニーズ、つまり顧客インサイトをつかみ、世界初、業界初のプロダクト・イノベーションを狙っている。