キーエンスの平均年収は2183万円で、国内企業で最高レベルを誇る。なぜそんな給与体系を維持できるのか。経営コンサルタントの菅野誠二さんは「付加価値を生むことが企業理念で、徹底的な合理化志向がある。営業が自分の顧客情報や売り方のベストプラクティスを共有する文化は、他社にはなかなか真似できないだろう」という――。

※本稿は、菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

株式会社キーエンス 本社
株式会社キーエンス 本社(写真=W236/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

キーエンスの営業利益率は驚異の55.3%

キーエンスは日本屈指の高収益企業(※1)だ。成長率もさることながら、特筆すべきは高収益体質で、売上高営業利益率55.3%は驚嘆に値する。経済産業省の2021年企業活動基本調査速報によると統計上の「業務用機械器具製造業」396社平均営業利益率は2.1%である。

近年、社員の高額な給与が話題になり、時価総額も急上昇している。かつてはマスコミでの露出が極端に少なかったが、『キーエンス解剖』(西岡杏/日経BP)がベストセラーになったので、興味のある方はそちらを参照してほしい。

筆者の顧客がキーエンスによって大きくシェアを奪われていたことがあり、興味を抱いて数名の方にインタビューしたので、それも含めて強みの解説をしていこう。

(※1)2022年3月期売上(連結)7552億円(過去10年CAGR14.2%)。海外売上が特に伸長しており、売上貢献度は59%。営業利益3034億円(過去10年CAGR16.5%、売上高営業利益率55.3%)、当期利益3037億円、ROE14.8%、自己資本比率94.1%。

工場や倉庫などの「現場の長」を重視して営業

同社の理念は「付加価値の創造により、社会に貢献する」である。顧客の潜在的な需要を掘り起こすことに注力しているが、それは顧客が商品スペックを決め、その要求に応える形で対応していたら遅すぎてしまい、付加価値が高まらないという思想がある。

顧客は、工場や物流の現場において、「どうしたら商品品質、コスト、デリバリータイミング、エコ調達のバランスを決められるだろう」といった悩みを抱えて困っている。操業効率に敏感で、このKPIに心を砕いている現場の長だ。

同社はB2B営業の常識である企業本社の購買担当者ではなく、工場・倉庫などの現場を重視して営業している。それは、ここに潜在需要があるからだ。「顧客が欲しいというものはつくらない」とまで言い、顧客の裏の裏にあるニーズ、つまり顧客インサイトをつかみ、世界初、業界初のプロダクト・イノベーションを狙っている。