「安売り」は本当にいいことなのか。経営コンサルタントの菅野誠二さんは「安売りを続けると、消費者も取引先も最終的には損をする。これに対し、パナソニックの『メーカー指定価格』という取り組みは、安売りから脱する画期的な挑戦だ」という――。

※本稿は、菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

シリコンバレーのパナソニック本社
写真=iStock.com/Sundry Photography
※写真はイメージです

あなたの会社は価格決定権を持っているか

多くの企業で行なわれている価格決定のフローは、下記の3つのうち、いずれかのパターンを慣習的、惰性的に実施している場合が多い。

① 自社コストに必要な利潤を加えて価格を決める
② 自社 対 競合商品の強弱で価格を調整する
③ 顧客、取引先のいいなりで価格を決めさせられている

この傾向は企業のマーケティング担当者と現実の価格決定の実例をインタビューしても同様であった。①はコスト・プラスという値決めの方法で、この発想である限り大胆な付加価値価格は設定しにくい。②③はよくある事例で、顧客価値創造プライシングではない上に、価格決定権を自社で持つ意志が弱く、圧倒的に主体性に欠ける。

価格支配力が移動した「ダイエー・松下戦争」

ここで象徴的な事例をご紹介する。1964年から30年間に渡ってダイエーと松下電器産業(現 パナソニック)の間で「ダイエー・松下戦争」と呼ばれる確執があった。これは松下がダイエーの安売りに対して商品の出荷停止をしたことからはじまったものだ。そしてダイエーから独占禁止法で告訴されて以降、取引が停止になった事態を指す。

松下の会長・松下幸之助は「定価販売(小売希望価格)でメーカー・小売が適正利潤をあげることが社会の繁栄につながる」と主張した。しかし、ダイエー創業者の中内㓛は「いくらで売ろうともダイエーの勝手で、製造メーカーに文句は一言も言わせない」と、相容れなかった。その後はダイエーだけでなく家電量販店の勢力拡大が続いた。松下幸之助の死後の1994年、両社はやっと和解し、販売供給が再開した。

この事例は松下という家電産業の雄が新しい勢力に屈し、「価格支配力」を譲り渡したことを意味している。そしてパナソニック以外の総合家電メーカーも同様の状況である。