パナソニックが始めた「値引き禁止」の挑戦

だが、パナソニックは価格支配力を取り戻すべく、2020年から画期的な試みを挑戦中だ。「メーカー指定価格」と呼ぶもので、一部のフラッグシップモデルに関しては、家電量販店が在庫リスクを負わない代わりにパナソニックが販売価格を指定して、値引きも一切認めないという制度である。

ショップポイントも勘案し、実質的にはどの店舗で購入しても同じ売価になる。売れ残りの在庫はパナソニックが引き取るという販売モデルの確立で、販売価格の拘束に該当しないため、独禁法には抵触しない。成功すればビジネスモデル・イノベーションである。

家電量販店は他店との競争上、通常は市場投入後に時間が経った商品の値引き販売や、特別なショップポイントの付与で「安値奉仕アピール」をする。その原資をメーカーへリベートとして請求する。これをメーカーが断ることは力関係上、困難だ。

テレビの壁を見ている女性
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メーカーの利益改善と商品の長寿命化を実現

折角の新製品も初速で売れ行きが鈍ければ、あっという間に廉価販売され、儲からない製品として市場を撤退することになる。つまり、製品の価格支配力は小売側にある。多くの家電は終売までに2割くらい価格が下がるので、売価を戻すことを目的に新製品を投入することが業界の慣習となっている。

菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)
菅野誠二、千葉尚志、松岡泰之、村田真之助、川﨑稔『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)

この弊害として、新しさをアピールするために現行商品の性能を少しだけ向上させ、時には消費者が望まない機能を付与したり、消費者不在の製品も生まれてしまっていた。

パナソニックとしては短期目線による毎年の新製品投入を繰り返し、営業利益率が低迷する状況から脱したい。そこで価格支配力を取り戻して利益を確保するため、IoTで家電をつなぎ、ソフトウェアで機能をアップデートし続ける仕組みをつくった。

これにより、むやみに新製品を乱発せず、商品寿命の長期化を狙うことができる。これは現行製品の値崩れを防ぐことも目的に含まれている。つまり、パナソニックのメリットは「メーカーの利益改善と商品の長寿命化」にある。