顧客にも家電量販店にもメリットがある「三方良し」

他方、小売側にもメリットがあり、「顧客と価格交渉の駆け引き時間がなくなり、その代わりにしっかりと商品説明ができ、販売員のストレスも低下する。フラッグシップ商品は指名買いなので、値引きが不必要なために売りやすい。小規模店舗でも在庫リスクを負わずに高価格商品を販売できる」というものだ。

さらには顧客メリットもあり、いつでもどこでも安心して買える。買ったあとの値下げを見て、悔しがることもなくなる。パナソニックは三方良しの精神に則って、Win-Win-Winを生み出そうとしている。

パナソニックの品田正弘社長は日経のインタビュー*にこう答えている。

適切な値付けができるかが最大のカギになる。
欲を出して高い値付けをするとうまくいかない。消費者を見極めて、価値に見合った価格を初期的につけるようにしないといけない。新取引は将来的に全家電の3割程度(金額ベース)まで拡大したい。
新たな取引形態が浸透して開発の競争力がつけば、適正な価格で販売できる製品も増えてくるはずだ。

*「家電の値崩れ止まるのか? パナソニック、量販店に価格指定」2022年10月4日 日経クロストレンド

パナソニックの「メーカー指定価格」は「価格支配力を確保したい」という強い意志表示だ。成否はまだわからないが、注目しておくべきだろう。家電競合メーカーも結果を見守っていて、成功の兆しがあれば追随する準備をしているだろうから、価格支配力のバランスが変わるかもしれない。

「お客様は神様」という極論は間違っている

顧客中心の企業というと、時折「お客様は神様」と考える極論が出やすいが、これは間違いだ。あまりに有名だが、あえて、リッツ・カールトンのクレド(信条)をご紹介する。

ドバイのリッツ・カールトン
写真=iStock.com/winhorse
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同社は世界でも指折りのラグジュアリーホテルで、卓越したサービスを提供するためのクレドが示されていて、これが全従業員レベルまで浸透している。このクレドはさまざまなサービス産業の企業がロールモデルとしていて、各社のクレドの元になっている。

注目すべきは従業員が所持するクレドカードに記載されている、この言葉にある。

「We Are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen.」

従業員が紳士・淑女であることがもっとも大切な資産であり、ゆえに顧客の紳士・淑女にサービスを提供できる、という価値意識である。