再建の事業費は90億円超…絶体絶命の淵で出た妙案

耐震調査の結果、補強に11億円、解体だけでも4億円かかるとの見積りだった。独自の再建は断念せざるを得なかった。最終的な事業費は山門だけで、およそ90億円にもなった。

このとき、飛び出した絶妙なアイデアは次のようなものだ。まず、山門部分の土地約2600平方メートルにたいして、60年間の定期借地権を設定。地代を得ながら再建する計画が持ち上がった。名乗りを上げたのが、地元企業である積水ハウス不動産関西(当時の積和不動産関西)。「御堂筋のシンボルにしたい」と、山門を既存の御堂会館以上の規模感で再建することに。

つまり、地主としての難波別院は地代を得、家主としての積水ハウス不動産関西はテナント料を得るスキームである。施工は、難波別院の「企業門徒」である竹中工務店が手掛けることになった(昔は、大規模な寺社にはパトロンが多くついていて伽藍がらんの寄進や建設を請け負ったものだが、近年では企業が寺社に資金を拠出しにくい企業体質になってきているのが残念だ)。

新たなビルでは山門の機能を備えるため、低層部の中央は参道として、通り抜けができる構造にした。吹き抜け部の天井は、寺の門であることを主張するため、伝統的な格天井のデザインが採用された。

撮影=鵜飼秀徳
北棟4階まで、寺務所やスターバックスが入る

2019年11月、地上17階地下1階の複合ビルとしてグランドオープン。山門の「脚」の部分に当たる北棟4階までは、難波別院が寺の施設として積水ハウス不動産関西から借り受けた。

そのうえで1階にスターバックスコーヒー(南御堂ビルディング店)を誘致。なんと、スターバックスの片隅には経本や難波別院グッズなど、真宗大谷派の布教ツールを販売している。宗教施設の中にスターバックスが出店した事例も、稀有である。

南棟は積水ハウス不動産関西が誘致した、企業が入居。その南棟1階には、行列のできるスイーツ店「ハナフル」が店を構えており、常に若い女性でいっぱいだ。

つまり、山門の1階に若い人々が集まる飲食店を構え、彼らを境内へと誘う仕組みである。従前の難波別院ではみられなかった、仏教と接点のなかった若者が寺の門をくぐり始めた。