歩くと危ないが、立ち止まれば怒鳴られる…

エスカレーターで歩いたことはないという人はどれだけいるだろうか。関東では左側は立ち止まり右側は歩行、関西ではその逆というルールは「東西文化の違い」の代表例として挙げられるように、エスカレーターでの歩行は当然視されてきた。

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しかし歩行者にぶつけられた、邪魔だと怒鳴られたなど「立ち止まり派」から歩行禁止を求める声は根強く、近年は障害などで左側の手すりにつかまることができない人にとって危険という指摘もあり、歩行論争は具体的な取り組みに発展している。

2021年3月に全国初の「エスカレーター歩行禁止条例」を制定したのが埼玉県だ。これはエスカレーター利用者に「立ち止まった状態でエスカレーターを利用しなければならない」、事業者(管理者)に「利用者に対し、立ち止まった状態でエスカレーターを利用すべきことを周知しなければならない」との努力義務を課す内容で、同年10月1日に施行された。

名古屋市も今年10月から「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」を施行し、「立ち止まっての利用」を義務化。エスカレーター歩行を禁じる流れができつつある。

「歩行はやめたほうがいい」と考える人は年々増加

だが2022年10月3日付の読売新聞(電子版)は、エスカレーター条例施行から1年が経過した埼玉県について、条例施行直後に歩く人の割合は減少傾向を示したが、1年が経過する頃には元の水準に戻ったという筑波大学の徳田克己教授の調査を伝えており、罰則規定のない条例では実効性に欠けるとの指摘もある。

利用者はどう思っているのだろうか。一般社団法人日本エレベーター協会は毎年11月10日の「エレベーターの日」にあわせて、エレベーターとエスカレーターの「安全利用キャンペーン」を展開しており利用者アンケートを実施している。

このうち「エスカレーターを歩行してしまうことがある」「人やかばんなどがぶつかり、危険と感じたことがある」「エスカレーターの歩行は、やめたほうがいいと思う」の3項目の2011年から2022年までの推移を見てみよう。

興味深いのはエスカレーター歩行経験、禁止意向とも2018年頃からトレンドが変わっており、特に2020年以降に大きく変化している点だ。2018年頃から兆候がある以上、コロナ禍による外出頻度や生活様式の変化が要因とは言えず、歩行問題が取り上げられる頻度が増えたためと考えるのが自然だろう。