プーチンが作ろうとしている「ロシア」の姿

帝国とは、権力的秩序に参加している国々を一つの国家として包摂したものである。したがって、帝国は必然的に多民族国家となり、民族の違いを超越した普遍的な価値観や思想が不可欠である。ソ連はまさに民族的対立は解消されたという建前の下で打ち立てられた国家である。

写真=iStock.com/agustavop
※写真はイメージです

しかし、現代ロシアはむしろロシア性を中心に置いた国家観を打ち出している。ロシア語やロシア文化を重視し、他国に居住するロシア語話者を「我々の人々」と呼んで保護する義務を引き受けているのだ。ドンバスのロシア語話者を中心とした分離派勢力を支援したことは、そうした思想の顕著な現れである。

亀山陽司『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)

つまり、ロシアは多民族国家であるが、ロシアの中心的民族はロシア民族、中心的文化はロシア文化であると考えている。そして、ロシア性をこそ国家の統合原理としている。

それは普遍を追求したソ連的な国家原理が失敗したことを反面教師に、プーチン政権が自覚的に作り上げた新たな国家原理に他ならない。それは、ロシア民族を中心的民族とした国民国家(national state, nation-state)としてのロシアの建国である。プーチンのロシアは、普遍性の上に建てられた帝国よりも、伝統的アイデンティティの上に建てられた国民国家の方が望ましいと考えている。

そしてこれまでのところ、その政策は成功しているように思われる。プーチンのロシアは、20年あまりの間に安定と繁栄を確立し、軍事的にも復活したからである。

関連記事
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」
これ以上戦争が長引けばロシアは解体を余儀なくされる…プーチンの最側近が「停戦」を訴え始めたワケ
「ねえ、ラブホいかへん?」夜の街で家出少女に声をかけられた牧師はどう答えたか
プーチンの焦りでロシア特殊部隊が"ほぼ全滅"…米紙が報じた「ソ連のターミネーター」の末路
相手の弱みを握り、最後は武力で押さえる…元外交官が痛感した「ロシア人らしい手口」の共通点