※本稿は、亀山陽司『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。
プーチンのロシアは世界をどのように見ているのか
権力的秩序は一元的ではない。つまり、アメリカだけが秩序を構成できるパワーを有しているわけではない。アメリカは巨大なパワーを有するが、それでもそのパワーは全世界に自らを中心とする一つのシステムを構築するには十分ではない。
プーチンのロシアは影響力を増しているし、中国もアメリカに対抗するほどの国力を蓄えつつある。ロシアや中国もそれぞれが秩序構成的パワーであると言ってよいだろう。欧州でもドイツやイギリスの力と影響力を無視できない。中東におけるアメリカの影響力は限定的である。
それゆえに、アメリカはEU諸国や日本と価値観を共有することで、共通の権力的秩序を構築しようとしている。スピノザが自然権を与えるものと考えた多数者の「共同の意志」という概念を用いれば、アメリカやEUが考えているのは、共通の価値観を「共同の意志」として一つの国際秩序を構築することである。これは欧米型の権力的秩序ということができる。
しかし、共通の価値観を「共同の意志」とするこの欧米型の権力的秩序は、実際にはアメリカの圧倒的パワーに依拠したものだ。
日本は「自立した主権国家」なのか
そして、日本もアメリカのパワーの影響下に置かれている。
つまり、権力的秩序のイメージとは、中心的パワーの重力圏に捕らわれた衛星国から構成される「系」である。このアナロジーでいけば、アメリカはさながら、70以上の衛星を従える太陽系最大の惑星である“木星”と言えるだろう。しかし、世界には唯一の権力の根源となり得る至高の支配者としての“太陽”は存在しない。
このような権力的秩序において、衛星国は完全な主権国家とは呼べない。スピノザは言う。他人の力の下にある間は他人の権利の下にあり、反対に自己への加害を自己の考えに従って復讐し得る限りにおいて、また、自己の意向に従って生活し得る限りにおいて、自己の権利の下にある。