プーチンが作ろうとしている「ロシア」の姿
帝国とは、権力的秩序に参加している国々を一つの国家として包摂したものである。したがって、帝国は必然的に多民族国家となり、民族の違いを超越した普遍的な価値観や思想が不可欠である。ソ連はまさに民族的対立は解消されたという建前の下で打ち立てられた国家である。
しかし、現代ロシアはむしろロシア性を中心に置いた国家観を打ち出している。ロシア語やロシア文化を重視し、他国に居住するロシア語話者を「我々の人々」と呼んで保護する義務を引き受けているのだ。ドンバスのロシア語話者を中心とした分離派勢力を支援したことは、そうした思想の顕著な現れである。
つまり、ロシアは多民族国家であるが、ロシアの中心的民族はロシア民族、中心的文化はロシア文化であると考えている。そして、ロシア性をこそ国家の統合原理としている。
それは普遍を追求したソ連的な国家原理が失敗したことを反面教師に、プーチン政権が自覚的に作り上げた新たな国家原理に他ならない。それは、ロシア民族を中心的民族とした国民国家(national state, nation-state)としてのロシアの建国である。プーチンのロシアは、普遍性の上に建てられた帝国よりも、伝統的アイデンティティの上に建てられた国民国家の方が望ましいと考えている。
そしてこれまでのところ、その政策は成功しているように思われる。プーチンのロシアは、20年あまりの間に安定と繁栄を確立し、軍事的にも復活したからである。