社長自ら介助をし、オムツを取り替える

大阪の中心部では難しいと思われた精神障害者の受け入れも可能になったことが大きい。

「労力がかかりますし、事務作業も煩雑ですから、生産性の点で思ったほど利益が上がるわけではないです。ただ、サービスについて公費負担があるので、経営の見通しが立てやすいのです」

取材して原稿を書くという記者職から、まったくの畑違いの分野へ移り、複数の会社の経営をする……。華麗なる転身だが、髙橋さん自身、今も現場の仕事もしている。自らが福祉の現場の前線に立たないと従業員がついてこないと思い、実務者(旧ヘルパー1級)の資格を取った。入浴や食事の介助、オムツの取り替えなどを行い、心身ともにハードな仕事の大変さを、身をもって知ることになった。

写真=本人提供
福祉施設の様子

社長として予期せぬことで対応を迫られるケースも少なくない。例えば、施設の利用者がウソの証言を警察に通報し、長時間拘束されたこともある。

「今年は新年早々監禁の疑いで聴取を受けました。一度や二度ではありません。また、障害特性から行方不明になる方もいるので、そちらの警察対応も私になります。そういうトラブルはなぜか深夜に起こることが多いので、スマホを枕元に置いて寝ています。利用者が救急車に乗って運ばれたら自分も同乗して、そのまま朝になることも。記者時代も夜討ち朝駆け、24時間体制で仕事をしていましたが、今も変わらないかもしれません」

突然死の入所者の親族から問い詰められる

筆者が取材した時も、偶然に施設で事件は起こった。

身寄りのない入居者が自室で突然死。亡くなってから発見されたが、解剖の結果、事件性はないと警察の判断があった。しかし、ことはそれではすまなかった。

「ご親族から連絡があり『施設側に落ち度があったのでは』と問い詰められました。その方には身寄りがないと思っていたのに驚きました。そんな場合でも、知る限りの情報をお伝えし、真摯しんしに対応するだけです」

福祉の現場ではいろいろなことが起こるが、新聞記者時代は、数々の事件現場に遭遇してきただけに肝は座っている。自身が書いたスクープ記事が元で、誘拐のターゲットにされそうになったり、訴訟を起こされたりして最高裁まで争ったこともある。こんなトラブルが起きた時、新聞社内の雰囲気は冷淡に感じられたそうだ。それゆえ「記者生活で孤独に強くなりました。孤独に耐えることは経営者として必要な資質ですから」と笑う。

さらには、ホテルや福祉の事業をやっていると、さまざまな背景を持つ人間たちが織りなす悲喜こもごものドラマのように見えることもあり、記者時代の好奇心が掻き立てられることもあるそうだ。

現在、高橋さんは前出の「健水」や「あるふぁ」以外にも福祉と不動産の会社の代表となり、日本人よりも外国人を積極的に幹部として採用している。

彼らの中には、語学に長けているのはもちろん、海外の大学で統計学などの学位を取っている優秀な人材もいる。日々の売り上げから販売予測や拡販対策なども行い、データを解析するレベルで取り組んでいることが戦力になっているという。髙橋さん自身、学生時代にずっと統計学も学んでいたので、前述の通り、ビジネス面でもデータ解析の重要性が身に染みているのだ。

写真=本人提供
外国人従業員との懇親会