「極潤」は便益と独自性を漢字2文字で表現
実際のマーケットにおいてブランディングで成功した例といえば、ロート製薬の「肌ラボ」シリーズの「極潤」もその1つかもしれません。この商品の何が特徴的だったかというと、化粧水や化粧クリームの名前に漢字を使ったことです。漢字表記は今ではわりと見られるようになりましたが、当時は必ずといっていいほど化粧品には英語の名前を使い、きれいでシンプルなイメージのパッケージデザインにすることがほとんどでした。
そこに「極潤」や「肌ラボ」といった漢字で大きく書かれた商品が出たのですから、インパクトがあったわけです。ほかの商品と差別化する要素として秀逸だったといえます。しかも、「極潤」の化粧水や化粧クリームはベタベタするほど保湿力が高いのが特徴でした。つまり、保湿力を求める人にとっては強い便益と独自性があり、その便益と独自性を漢字2文字でしっかり表現していたわけです。
あの商品を仮に「スキンラボ」などのような英語名にしていたら、ほかの商品との区別があいまいになったことでしょう。商品の便益も伝わりづらいため、店頭で買ってみようと手を伸ばす人が減るはずです。また、せっかく購入してもらったあとも「あの化粧水って何だったっけ?」と忘却されてしまう可能性が高くなります。パッケージも、英語のロゴが入ったような、いわゆる化粧品らしいデザインだったら店頭でどれだかわからなくなり、目についたほかの商品にスイッチされてしまう可能性もあります。
思いきった独自の名前とパッケージ「男前豆腐」
これは、私の入社前に、ロート製薬の担当チームのみなさんがつくり上げられていた、素晴らしいものづくりとブランディングの事例です。脳のキャパシティには限界があるのに、新しい製品やサービスがどんどん出てくるため、独自性のない商品や特徴のない商品はすぐに忘却されてしまうのです。
ほかにも、差別化しにくい商品を独特なマーケティングで売りだしたので有名なのは、男前豆腐店の「男前豆腐」です。ブランドの名前だけでなく、パッケージもほかの豆腐とはまったく違ってイラストを全面に使ったものになっています。「男前豆腐」が出てきたときは大きな話題になりましたが、実際は豆腐の品質や製法にも強いこだわりがあり、食べてみると非常においしいため、その後もよく売れています。
一般的な豆腐らしくない見た目に独自性を感じて、買って食べてみたら、とてもおいしいという便益があったため、口コミで広がっていったのです。そもそも豆腐というのは、見た目だけではおいしさが伝わりにくい食品です。白くて四角い豆腐が店頭に並んでいるのを見て、「この豆腐はとてもおいしそうだ」と思ってもらえるように訴求するのは難しいですよね。
また一度購入して食べたあとも、名前を覚えていないと、次も同じ豆腐の購入につながりにくく、独自性を感じさせることが難しいのです。だからこそ、思いきった独自のネーミングとパッケージデザインによってブランディングされたのです。