お互いの考えを完全に一致させるのは、そもそも無理
ここでちょっと、想像してみてください。まず、あなたの考え方を円で表してみます。この円の中には、中心点であるあなたの主張とともに、それを導き出すために使った「観察事実」、つまり、「何が起きたか」ということと、「なぜそれが起きたか」という原因を考える「思考回路」の両方が描かれていると思ってください。
そして、異質で、あなたと違う意見を持つチームメンバーの主張、「観察事実」「思考回路」をもう1つの円で表してみます。相手の円は、あなたの円と重なることなく、離れたところに描いてください(図表1)。
ここで多くの人は、この円の中心点を完全に一致させようとします(図表2)。
確かに自分の円とメンバーの円が重なると嬉しいものです。共通点が多ければ多いほど、会話が盛り上がり、相手と仲良くなれるのはそのためです。そういうメンバーには安心して仕事を任せたいと思うはずです。
一方、円がずれているメンバーに対しては、なんとか自分と同じ考え方になるように、すなわち、完全に円が一致するように説得を重ねようとします。しかし、いくら説得を重ねたところで、メンバーと自分の考え方が完全に一致することはほとんどありません。
その結果、メンバーに仕事を任せきれず、最後にはすべての仕事をジャックしてしまう。そう、まさに「一人プロジェクト」であり、メンバーも自分も不幸になります。
「違うんだよな…」の発想では、異質を取り込めない
そもそも、人間同士が完全にすべての価値観、考え方が一致することなどあり得ません。特に価値観が大幅に違うX世代、Y世代、Z世代では皆無と言えるでしょう。
いま思えば、「一人プロジェクト」の当時、円が完全に一致しているように見えたチームメンバーは、実は、私の円に合わせてくれているに過ぎなかったのだと思います。
彼らは個性を殺して、私の軍門に降ってくれた。これはいわゆる親分と子分の関係であり、まさにピラミッド型組織の典型です。
一見やりやすいけれど、それは、いわば私のコピーがチームに何人もいるようなもの。そこからはなんのイノベーションも生まれません。
さらに悪いことに、メンバーが私と円を少しでもずらした瞬間に、私はそのメンバーの忠誠心を疑いました。子分が離反するんじゃないかという不安が心に湧いてきて、「君は、まだまだだな。違うんだよ」とでも言って、その後、飲みに連れ出し、さらに説教していました。まさに最悪のマネジメントでした。
しかし、同じようなことをあなたもやっていないでしょうか。「違うんだよな」と思い、何度も説得を重ねる。そんなマネジャーをメンバーは疎ましく思っているに違いありません。