在宅介護

毎日訪問看護師が来て、週2回は訪問入浴とリハビリ。月2回は訪問医師と訪問歯科、薬剤師まで来る慌ただしい毎日がスタートした。このとき犬山さんは、母親を自宅で介護するため、長年勤めてきた会社を辞職。妹は仕事に行く前と帰宅時に犬山さん宅に寄り、母親の身体を拭いたり、ベッドの上での運動を手伝ってくれたりした。

毎朝、犬山さんが母親の点滴を交換し、看護師が浣腸。その後点滴を外し、入浴。昼食を食べさせ、合間に掃除や買物。夕方にリハビリを行い、17時ごろに夕食を食べさせて、就寝という毎日。

写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです

「母は年相応のもの忘れ以外、頭はしっかりしています。会話もでき、食事も問題ないですが、着替えやトイレは全介助です。仲は悪くなく、特に口論することもないですが、かといって感謝されることもありません。生活費は母の年金から1カ月1万円もらっていますが、光熱費に消えていきます。妹とはたまに口論になりますが、その時は『じゃあ、あんたが面倒見ろ!』と言うと黙ります。弟は無関心ですね」

母親の入院費やリハビリ代、薬や服、食べたいものなど、母親に使うお金は母親の年金から出しているが、生活費は1万円以外、犬山さんが負担している。

「私は10年前(59歳)まで約40年間働いてきたので、貯金はある程度あります。年金も月12万円もらっていて、母の介護で自由な時間がないのでそれで生活していけます。母は認知症ではないのでまだよかったです。認知症の人を介護する場合、家族が精神的に参ってしまうケースは少なくないと思います。母も認知症なら施設にお願いしましたが、おそらくこのまま家で最後まで看ることになるでしょう」

信頼できない医師を見限って、点滴をつけたままの母親を家に連れて来たあと、母親は1週間高熱が続き、グッタリしてしまった。救急病院に連絡して連れて行ったところ、点滴のところからばい菌が入ったと言われ、処置を受け、薬を出してもらい、帰宅する。幸い、点滴が外れると熱は下がり、食事が取れるようになり、車椅子で出かけられるほどに回復した。

「あのときは本当に安心しました。母は現在も、パーマやカラーもして、コンビニやスーパーに車椅子で出かけています。オムツ交換・排泄後も、最後はお湯で流し、お尻を拭いてあげています。クリームも塗って、お肌もピカピカです。このまま最後まで、家で穏やかに過ごしてほしいと思います」

93歳になった母親がときどき腸閉塞で入院すると、犬山さんは、ここぞとばかりに出かけ、外でランチをして息抜きをしている。

「重症ではないし、たまにはこんな日もないと、疲れるので……。私自身、健康だからできるのかもしれません。今は母のことで精いっぱいで、自分のことを考える余裕がありませんが、もしも自分が要介護状態になったら、介護付き有料老人ホームに入るのかなと思います」

被介護者が認知症であってもなくても、介護する側の家族の多くは「自分のことを考える余裕がない」と口にする。犬山さんも、今年70歳。いつ自分が介護を受ける側になってもおかしくない年齢だ。自身の年金は12万円というが、ひと月12万円で入れる有料老人ホームは多くはなく、おそらく貯金を切り崩して生活することになるだろう。

親のために自分の生活を犠牲にしてまで介護することは、果たして正しいことなのだろうか。筆者としては、ただ安心して歳を重ねられる社会を願ってやまない。

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