協力員の話から浮上した3つの可能性
だが、どうしてもこの話が頭から離れなかった。
そこから、私たちが考えた可能性は3つになった。
2 一般登山道を進み、稜線上まで出た後、滑落などアクシデントに見舞われて動けなくなってしまった。
3 間違った向きになっていた看板を信じて、正しい方向とは逆に進んでしまい、その先で道に迷ってしまった。
可能性1について、捜索隊が迷い込みの可能性がある箇所を捜索する中で、現在は使われていない廃道が存在することが分かった。廃道にはところどころに古い目印があり、それをたどっていくと、集落へ下りることができた。ただ実際に歩いてみると、私でさえ、GPSで自分の現在地をしっかりと確認しないと不安になるほど荒れていた。
可能性2については、稜線からロープを伝って下まで降りて目視による捜索を行い、また、危険度の高い箇所はドローンを飛ばして稜線までの間を撮影し、画像解析を行うという捜索も行った。
そして、第3の可能性。T字路で反対方向に行ってしまった場合、山頂とは反対方面の稜線に登山道は存在しない。道迷い、転滑落のいずれの可能性もあり、捜索範囲も広大になる。
山中の目印全てが登山道を示すわけではない
山中には、木に結び付けられたリボン、岩などにペンキで描かれた丸やバツなど、いろいろな「印」がある。
これらは、誰が付けた印なのか。林業家による印であったり、きのこ狩りに来た一般の方によるもの、もしくは地元の方が「自分たちの目印」として付けたものなど様々である。それを登山道の印だと勘違いし、遭難してしまう人が非常に多い。
もちろん登山道を示す印も多く存在する。それが本当に登山道を示すものなのか、または別の目的で付けられた印なのかをよく見極める必要がある。
登山の際には、山中の目印だけを頼るのでなく、地図を読んで登ってほしい。そして常に「万が一」の可能性を頭に入れて、行動することが大切だ。
話をMさんに戻そう。先ほどあげた可能性1、2を想定した地上捜索を中心に、稜線へつながる沢や廃道の捜索も実施した。
ただ、地上隊が入るには難しい箇所も多く、ドローンを利用して沢や稜線からの転落の危険性がある箇所の映像を何度も撮り、それを画像解析してMさんを探した。
2カ月近く捜索したが、Mさんの発見には至らず、梅雨入りと青葉の時期を迎えた。
山は茂った葉で見通しが悪くなって、捜索の継続が難しくなった。