どうしても気になった「T字路の先」

ご家族と話し合い、捜索活動は一度休止して、秋の落葉後に再度捜索を行うこととなった。

「もう、全て見尽くした」と思えるほど、捜索をした。しかし、1カ所だけ、どうしても私たちの捜索が間に合わなかった箇所がある。

それは、T字路に付けられたあの看板を信じ、山頂とは反対方面へ向かった場合にたどり着くであろう1本の沢だ。

もし、MさんがT字路の看板がズレていたため、間違った方向の左に進んでしまったとしたら、その先には軽自動車くらいの大きさの岩が目の前に現れたはずだ。この大きな岩を見てMさんはどう思ったのだろう?

「Mさんなら慎重に沢沿いを下っていったはず…」

「この先には進めないな」と思い、行き止まりだと判断するはずだ。しかしよく見ると、岩を迂回うかいして先に進むことができるようにも思える。その先は急な斜面になり、沢の水源(登山用語では「源頭」という)に突き当たる。

Mさんがこちらに進んでいたとしたら……。そのまま沢へ下っていったであろう。沢に行き着いたMさんは、おそらく滑らないように、滑らないように……濡れた岩や石を掴み、足元を確認しながら慎重に沢沿いを下っていったはずだ。

中村富士美『「おかえり」と言える、その日まで』(新潮社)

沢を下っていくと、二段になっている滝がある。そこもドローンで動画を撮っていたが、「沢の中は、現場に行かないと分からない。ここは、実際に行ってみる必要がある」と隊員間で話をしていた所だった。

LiSSでは毎回、それまでの捜索活動の内容を報告書にまとめ、ご家族と管轄の警察に提出するようにしている。警察への情報提供は義務とされているわけではないが、私はこうした情報提供によって私たちの捜索活動への理解を得られるとともに、捜索実施範囲の共有ができると考えている。この時も、これまでの捜索過程と未捜索範囲をまとめた報告書を管轄警察へ郵送した。

後日、一本の電話を受けた。私たちが提出したこの報告書を受け、未捜索であった沢を警察が捜索してくれることになったのである。

そして、この沢からMさんは発見された。

※編註:Mさんは既に亡くなっており、発見から数日後、秩父市内で荼毘に付された。

地図=ジェイ・マップ
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