出会いは経営者たちが拳を交える大会
藤田は健康のためにキックボクシングジムに通っている。個人指導に当たるトレーナーは格闘技界のレジェンド、小比類巻だ。
小比類巻は多くの経営者のトレーナーになり、経営者を対象にしたチャリティーイベント「エグゼクティブファイト武士道」もプロデュースしている。
「エグゼクティブファイト」はビジネスの第一線で活躍する経営者が拳を交える大会だ。「トレーニングだけでは物足りない。具体的な目標が欲しい」という要望に応える形で2020年にスタートした。
小比類巻と藤田の2人をつないだのも「エグゼクティブファイト」だった。応援のために大会会場に足を運んだ藤田は小比類巻に出会い、キックボクシングに魅せられた。その後、東京・恵比寿にある「小比類巻道場」の会員になった。
小比類巻はファイターとしての藤田をどう評価しているのか。
「経営者の方でもすごい人はいっぱいいます。その中でも藤田さんはずば抜けています。ミット打ちを続けていればだんだん疲れてきて、メンタルが落ちてくるものです。でも藤田さんは違います。目を開いてますます燃えるんですよ。仕事でも同じではないかと思っています」
格闘技が苦手なのに見る見るうちに元気に
ミット打ちが楽しいならキックボクシングも楽しいはずだ、と藤田はにらんだ。母親が東京にやって来たタイミングで、小比類巻道場へ誘ってみた。
「母さん、これから小比類巻さんのジムに行く。一緒にどう?」
「行かない……絶対に行かない。私はお家におるから一人で行って」
母親は格闘技を苦手にしていた。大みそかに息子がテレビで格闘技の試合を見ていると、「そんなの見るのやめて!」と言うほどだった。
藤田は諦めなかった。
「見学だけでもいいから行こう」
結局、藤田親子は一緒に小比類巻道場へ向かった。
道場で親子を出迎えた小比類巻。息子の意図を感じ取ったのだろうか、当時82歳の母親を見て声を掛けた。
「せっかくいらしたのですから、ちょっとやってみませんか?」
「少しだけなら……」
小柄な母親はグローブを着け、身長180センチ以上のレジェンドを相手にトレーニングを始めた。最初は恐る恐る、徐々にテンポを上げていった。すると、見る見るうちに元気を取り戻した。