トップアスリートの存在が刺激になる
高齢者相手であるならば、元キックボクシング王者がわざわざ出てこなくてもいいのではないか? 小比類巻は次のように説明する。
「同じ空間にトップアスリートがいると、誰もが刺激を受けます。例えば恵比寿の小比類巻道場にはプロ選手もいれば初心者もいます。周りにトップアスリートがいれば、お年寄りも元気をもらえるのではないでしょうか。だから、木頭支部にもプロ選手が定期的に行って指導する体制にします」
藤田と二人三脚で地方創生にも力を貸したいという。
「フィジカルだけではなくてメンタルも含めて日本を元気にしたい。人口の3分の1が高齢者になる時代です。高齢者が元気にならないと日本全体も元気にならない。藤田さんのお母さんがあれだけ元気になったのだから、やれるはずです。まずは木頭からスタート。キックボクシングを上手にやるカッコいいお年寄りたちに子どもたちが憧れる――こんな世界をつくりたいですね」
「人生100年時代」に健康寿命を延ばすには
これは、第7回で紹介した瀬戸内海に浮かぶ大崎下島の限界集落を舞台にして進む「まめなプロジェクト」と似ていないか。同プロジェクトは高齢者を元気にすることで「介護のない社会」を目指している。
藤田は東京で活躍するIT起業家であると同時に、地元で地域密着型ベンチャーを立ち上げたルーラル(田舎)起業家でもある。古里の木頭を再生するためには経済を活性化させるとともに、「人生100年時代」を念頭に健康寿命を延ばす必要があると考えている。
「高齢者が元気であり続けるには何が必要でしょうか。いろんな選択肢があります」と藤田は言う。「地方の魅力が高まって昔のように三世代同居が普通になれば、おじいちゃん・おばあちゃんが元気になります。キックボクシングジムで運動の機会が増えれば、やはりおじいちゃん・おばあちゃんが元気になります。いろんな選択肢をパッケージ化して実験してみたい」
自分自身の老後もすでに視野に入れている。
「10年後に僕は60歳になります。そのタイミングで経済界から足を洗うと決めています。そこで一番重要なのは、10年後に94歳になる母親が健康でいてくれるということ。次に重要なのは、住んで楽しいと思えるような環境を木頭につくるということ。今から設計しないと絶対に間に合いません」
限界集落とキックボクシングジムの組み合わせは常識破りだ。ある意味で未来コンビニ以上に。国や自治体には決してまねできないプロジェクトといえよう。(文中敬称略)