元K-1王者の小比類巻選手がプロデュース
キックボクシングジムは今年7月に徳島県那賀町木頭地区――旧木頭村――でオープンする。正式名称は「小比類巻道場木頭支部」。そう、格闘技「K-1 WORLD MAX」で王者に3度輝いた小比類巻貴之がプロデュースするジムだ。
木頭の人口はいまや1000人を下回り、全体の6割が65歳以上の高齢者。過疎化と高齢化が同時進行する限界集落である。
大都会で若者向けにキックボクシングジムをオープンしても誰も驚かない。だが、超高齢化社会の縮図ともいえる山村が舞台となると話は別だ。誰もが「なぜ?」と不思議に思うだろう。
現地を訪ねたとき、キックボクシングジムが入る建物は足場で囲まれた状態にあり、建築資材はブルーシートで覆われていた。たまたま休日であったためか、作業員は1人も見当たらなかった。周囲には人影もなく閑散としていた。ここでシニア世代がキックボクシングに励む情景がどうにもイメージできなかった。
「限界集落にゲートボール」なら違和感ないが…
計画によれば、建物は木頭杉を使った2階建て。直線と曲線を組み合わせた斬新なデザインだ。1階は開放的なコミュニティースペース、2階はキックボクシング用のトレーニングスペース。コミュニティースペースにはいろりやカフェ、バーベキューエリアも用意されるという。
要するに、キックボクシングジムを中心とした複合施設が生まれるわけだ。静かな山奥に位置しているだけに、完成の暁には間違いなく人目を引くだろう。木頭再生プロジェクトの一つとして2020年、同じ木頭地区にオープンした「未来コンビニ」がそうであるように。
ただ、人目を引くからといって集客できるとは限らない。木頭はもちろんのこと那賀町全体でも本格的フィットネスジムは一つもない。複合施設は地元のお年寄りにとってどれだけ魅力的な存在になるのか、外部から若者を引き寄せる起爆剤にもなるのか、現段階では未知数だ。まずは社会実験的な位置付けになる。
現地の案内役を買って出てくれたのは、藤田と同じ高校に通っていた同郷の仁木基祐。地方創生のために藤田が設立した「木頭デザインホールディングス(KDH)」の執行役員を務めていた。
限界集落にゲートボールならともかく、キックボクシングはどういうことなのか。ニーズがあるのだろうか。仁木からは興味深い回答が得られた。
「お母さんに元気になってもらいという気持ちが出発点だったみたいですよ」
お母さんとは藤田の母親・示子のことだ。