「スピード」と「情報公開」、「冷静な判断」が必要

情報収集を進めながら、どのように情報発信を行うか。神山さんは、外部と社内、両方の対応を同時並行で行った。同社のネット通販事業や新卒採用活動でSNSを活用してきた神山さんは、「スピード」と「情報をオープンにすること」の重要さをよく認識していたが、一方で「こんな時こそ冷静な判断が必要。慌てて動くことは避けたいと考えました」という。細心の注意を払いながら、プレスリリースと社内への説明の準備を進めていった。

インタビューに答える船橋屋社長の神山恭子さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

弊社代表取締役社長の交通事故に関するインターネット上の書き込みについて

公式ホームページでプレスリリースが公開されたのは9月27日夕方。反響は想像以上に大きく、サーバーがダウンするほどのアクセス集中が起きた。メディアの取材や、店舗が入っている百貨店からの問い合わせなどが多数あったほか、本店だけでなく各店舗にも、SNSの投稿やプレスリリースを見た人から批判の電話がかかってきて対応に追われた。

神山さんは、できるだけ現場を回って社員に声をかけ、厳しい電話に対応していた社員には個人面談をするなどしてサポートした。「難しい対応だったと思います。でも、全員が『いただいたご意見には誠心誠意対応しよう。一緒に船橋屋を守りましょう』と言ってくれたので、信頼して現場を任せることができました」と振り返る。

「佐藤恭子」の名前で出したプレスリリース

そして9月28日朝には、「執行役員 佐藤恭子」名義で「無関係な企業と弊社従業員へのインターネット上の書き込みについて」という2本目のプレスリリースを公開した。

その意図を本人はこう語る。

「従業員個人や、無関係な企業への誹謗ひぼう中傷が多く、『何とかできないか』という相談が私のところに寄せられていました。渡辺前社長の行動は許されるものではありませんが、従業員は守らなくてはいけませんし、無関係の企業の皆様にご迷惑をお掛けすることは避けなければなりません。現場の指揮を執っている人間として、自分の考えをしっかりお伝えしたいと考え、佐藤恭子の名前で文書を出しました」

前日に出した第一報のプレスリリースは、会社の名前で、船橋屋の総意としてのお詫びを表したもの。この日のリリースは、それとは意味合いが違うことを伝えたかったのだという。

実際、27日から28日にかけてはSNSに「営業をやめろ」「2度と買わない」といった厳しい書き込みが殺到。従業員らも不安を募らせていた。前社長の行為に対する声は受け止めるが、従業員に危害が及ぶようなことは止めなくてはならない。自分の名前で「お願い」の文書を出すことで、そうした強い意思を表したかったのだという。