富士山で登山道の混雑や登山客のマナー違反が問題となっている。九州大学准教授の田中俊徳さんは「登山者数自体は、長期的には減少傾向にある。オーバーツーリズムを解決するには、利用者の『質』やコントロールの方法を変える必要がある」という――。

※本稿は、田中俊徳『オーバーツーリズム解決論 日本の現状と改善戦略』(ワニブックス【PLUS】新書)の一部を再編集したものです。

富士山を登る人々の長蛇の列
写真=iStock.com/Ryosei Watanabe
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観光客の「数」だけでなく「質」も問題

日本各地で、オーバーツーリズムが大問題になっている。

京都は外国人観光客で溢れかえり、市民の足である市バスには長蛇の列。市民が市バスを使えない事態が生じている。

富士山では、山小屋の予約を行わずに弾丸登山を行う軽装の外国人が急増し、高山病の症状等で八合目救護所の医療がひっ迫している。沖縄の海では、急増する観光客をあてこんだ偽物の“エコツアー”が増加し、違法駐車や水着姿で歩く観光客に地域の人が迷惑している。こうした“エコツアー”は、無店舗型・無保険であることも多く、地元紙も指摘するように、半グレ集団の資金源になっているケースもある(「琉球新報」2022年3月12日)。

また、近年はSNSの影響から、迷惑系ユーチューバーの観光客も登場し、各地で迷惑行為が多発している。あるスペイン人ユーチューバーは、2023年10月に新幹線のトイレに立てこもり、無賃乗車を繰り返す様子をユーチューブで世界に発信し、非難を浴びた。2023年9月には、アメリカ人ユーチューバーが、建造物への不法侵入や威力業務妨害で逮捕される事件も起こっている。

性善説で成り立つ日本の安心・安全を脅かし、その様子でアクセス数を稼ぐという卑劣な行為である。オーバーツーリズムでは、混雑や渋滞のような「数」の議論に注目が集まることも多いが、迷惑系ユーチューバーのように、観光客の「質」が問題であることも多い。

弾丸登山でトラブルを起こす外国人たち

2012年の世界文化遺産登録の前から富士山の混雑は有名だったが、近年はいわゆる「弾丸登山」による体調不良者の続出、その対応に当たる人々の苦労が問題となっている。

図1を見るとわかるように、オーバーツーリズムが盛んに報道された2023年の登山者数は、実は、コロナ前のほぼ全ての年よりも少なくなっている。それでも、多くの報道が出たのは、登山者の「質」が問題になったからである。

【図1】富士山の登山者数及び各登山道別登山者数の過去10年分の推移
環境省「2023年夏期の富士山登山者数について(詳細版)」(2023年9月19日)より

特に、外国人の技能実習生が弾丸登山を行い、山小屋や登山道の傍らで野宿を行ったり、危険な場所で火を用いるといった問題が多くのメディアやSNSで指摘されている。2023年8月12日に新七合目付近で救助されたベトナム国籍の技能実習生の服装は、長袖シャツにスニーカーで食料すら持参していない「弾丸登山」であった。