登山者の命を奪ってきた危険な山
富士山は混雑しているため、いたるところで渋滞が発生しており、停滞する時間も長い。軽装での登山は登山者を低体温症にさらしてしまう。また、渋滞の際に、登山道をはみ出したり、追い抜こうとしたりすることで、落石が発生する危険もある。
実際に、2019年には落石により20代のロシア人女性が命を落としている。1980年には、富士山の吉田ルートで死者12人、負傷者29人を出す落石事故も起こっており、富士山の危険度は、多くの人が思っているより遥かに大きい。
それにもかかわらず、2024年2月現在、富士山には、何ら規制や入山料の徴収義務化といった仕組みが存在せず、オーバーツーリズムを招いてしまっている。これは国際的な標準から考えても、異常事態である(※1)。
※1 2023年11月29日に富士山のオーバーツーリズムについて議論する最初の会合が開催された。事務局は環境省、山梨県、静岡県の3者で、協議会の正式名称は「富士山における適正利用推進協議会」である。構成機関は事務局を務める3者に加え、林野庁、文化庁、国交省、防衛省、地元市町村、地元観光組合、旅館組合、登山組合、富士山本宮浅間大社など、地権者や利害関係者が参加している。
2024年夏、山梨県が入山規制をスタート
本書の第3章でも詳述するように、富士山や屋久島などオーバーツーリズムが懸念される有名な自然観光地はほぼ全てが「国立公園」である。通常、国立公園では、自然保護のために観光利用に際して様々なルールを策定しているが、日本の国立公園は海外とは異なり、許可制やガイド同行義務付け、入園料のような制度を採っていない。
富士山も、標高3700mを超える高山でありながら、入山に際する規制は2024年2月現在、一切存在せず、誰もが許可なく無料で登ることができる山である(※2)。
※2 本書の執筆が終わった後、2024年3月5日に山梨県議会で吉田口登山道を利用する登山者に通行料2000円の支払いを義務付ける条例が可決。また、1日あたり利用者数が4000人を超えた時点及び午後4時~午前3時にゲートを閉鎖することが決定した。ただし、富士山には登山道がいくつもあるため、吉田口を規制するだけで、問題解決となるかは注視する必要がある。