定年後も実社会でいきいき働くための原則とは何か。82歳で起業した実業家の松本徹三さんは「『瑣末なことにこだわらない飄々たる雰囲気』を持つ名脇役になるのがお勧め」という――。

※本稿は、松本徹三『仕事が好きで何が悪い! 生涯現役で最高に楽しく働く方法』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

ノートパソコンを使う年配の実業家
写真=iStock.com/miya227
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これまでとは異なる仕事の魅力

定年後に「これまでの経験が活かせる仕事」を求める人たちは、「安全志向」の人たちですが、それはそれで決して悪いことではありません。

あなたがあなたの所属した会社で当たり前にやってきたことが、実は別の会社には欠けていたことで、これがその会社の業績改善に大きく役に立つなどということも、十分ありうるからです。しかし、それはあまり「ワクワクする」ことではありません。

これに対して、せっかく定年にしてくれたのだから、これからは「これまでとは全く異なった仕事」をやろうと考えると、それだけでちょっとワクワクするのではないでしょうか?

なぜ「これまでとは異なった仕事」に魅力があるかといえば、大きく分けて次の三つのファクターがあるかと思います。

1 何事も(働く時間も、仕事の内容も)もっと「自由」に自分で決められる。
2 もっと自分に向いた(自分が得意で、やっていて「楽しい」)仕事を選べる。
3 世の中のために(あるいは次世代のために)なっているという「誇り」が持てる。

私は、これを、「自由」「楽しい」「誇り」の「仕事選びの三原則」と呼んでいます。

「生活の向上」の誘惑はキリがない

それでは、なぜこれまではそういう仕事が選べなかったかといえば、自分の属する「組織」がそれを許さなかったからであり、なぜその「組織」から離れられなかったかといえば、自分が「生活の(経済的な)安定」をまず求めなければならなかったからでしょう。

そうです。「生活の安定」は、多くのサラリーマンが、普通真っ先に考えることです。

いや、「生活の安定」という言葉はあまり正確ではなく、「生活の向上」と言った方が良いかもしれません。「安定」なら、ある一定の水準で満足できますが、「向上」となれば、欲求はいつまでも際限もなく広がります。

最近は若い人たちの「結婚願望」がどんどん少なくなっているようですが、その要因の一つには、「家庭を持って子供の養育と教育にお金をかけるぐらいなら、独身である程度のお金が自由気ままに使える方がいい」という考えがあるようです。

2人目の子供を断念する傾向が大きくなっているのも同じ理由によるものでしょう。しかし、そういう基本的な問題は、入り口に過ぎず、実際には「生活の向上」の誘惑は、際限もなく広がっていくようです。

それは、周囲の人たちの贅沢がいやでも目に入り、羨ましく思わざるを得ないからでもあるでしょうし、テレビや映画でそれを見せつけられるからでもあるでしょう。会社の中では、自分と同期の仲間が、あれよあれよという間に偉くなり、自分の地位は一向に上がらないとなると、癪にもさわるし、少し惨めな気持ちにもなるでしょう。