最初は厳しい声ばかり、徐々に応援も

神山さんは、多くの電話やメールの内容に目を通し、ネガティブな声にも耳を傾けた。

「最初は厳しいお声が圧倒的に多かったんですが、徐々に『潰れたら困るので、応援の意味で買います』『商品は間違っていないんだから大丈夫』といったメッセージも増えていきました。店頭に足を運んでくださるお客さまも、従業員に応援の言葉をかけてくださっていたと聞きます。本当にうれしかったですし、励まされました。船橋屋は歴史の長い企業ですが、それはファンのお客さまが支えてくださったから続いているんです。私たちとしては、そうしたお客さまに応えたい」

前社長の辞任、神山新社長の就任へ

一方で、新体制への移行もスピーディーに進んだ。9月28日には渡辺前社長から辞任の申し出があり、翌日29日午後には臨時株主総会と取締役会を開催。前社長の辞任が承認され、神山新社長の就任が決定した。

この時の経緯を、神山さんは改めてこう語る。

「『任せていただけるのであればやります』と、それだけでした。これまでは、自分が社長になるなんて考えたこともありませんでしたが、一刻も早い信頼回復のためにも『矢面に立てるのは私しかいないかもしれない』と思いました。それに、社長になっても1人ではない。社内に信頼できる仲間がいますから、一緒に乗り越えられるだろう、と」

神山さんは、2015年に社内で行われた、従業員全員を対象とした総選挙「リーダーズ総選挙」で圧倒的多数を獲得。会社のナンバー2となる執行役員に選ばれ、その後も会社の業績を順調に伸ばしてきた。「執行役員になった時から、『船橋屋を引っ張る覚悟』は持っていました」という。

船橋屋の200年以上の歴史の中で、神山さんは、初めての創業家以外出身の社長となる。しかし、「趣味は船橋屋の歴史を調べること」と公言してはばからない神山さん。創業家の役員らにも、何度も船橋屋の歴史について話を聞きに行ったことがあり、ビジネスの能力やリーダーシップだけでなく「船橋屋“愛”」の強さや社内からの信頼の厚さも知れ渡っていた。

前社長への複雑な思い

一方で、育ててくれた渡辺前社長に対しては、今でも複雑な感情があるようだ。

渡辺前社長本人に、直接怒りをぶつけたという神山さんは、こう語る。

「あのような不誠実な対応は、本当に許されません。これまで二人三脚でやってきましたし、私自身もこれまでのことに感謝がある。しかし、船橋屋をしっかりと引き継いで、成長させることが使命だと思い、まずは今、目の前でやらなくてはならないことに集中しなくてはと、すぐに頭を切り替えました」

インタビューに答える船橋屋の社長、神山恭子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
インタビューに答える船橋屋の社長、神山恭子さん