コーヒーはダメ、紅茶はいい
そのとき、当時の証券局長が苦笑いしながら筆者に言った。
「今回、大蔵省で接待に関する内規ができました。コーヒーもご馳走になってはダメなんです。でも、紅茶はいい。紅茶は“お茶”だから」
今では、多くの公務員はコーヒー一杯でも先方と割り勘にするなど、大変気を使うようになっている。
「ノーパンしゃぶしゃぶ」から始まった大蔵省過剰接待疑惑は、やがて巨大な汚職事件に発展する。
前述したように1998(平成10)年、東京地検特捜部が大蔵省に捜査に入るが、当時、検察はすでに金融機関から十分な情報を入手していたといわれる。
また、世論を看過することはできないという考えもあったようだ。
自ら身を引いた長野証券局長
検査結果に基づき、4月28日、接待疑惑で112人という前代未聞の大量処分が公表されたことは、前述したとおりだ。
そこには、長野厖士証券局長の名前もあった。
長野は、大蔵省に入る前に司法試験に合格していたので、退官後は司法修習所の研修を受けて弁護士となるという道もあった。
しかし、過剰接待収賄疑惑で逮捕ということになれば、その資格はなくなり、弁護士への道は絶たれることになる。
検察に追及を断念させるには、すでに十分な社会的制裁を受けたと認めさせることが必要だった。
そのためには、自然な形で自ら身を引くのがいい。それが長野の決断だったといわれた。
長野は、辞表を提出し受理された。当時の大蔵省の局長級の退職金は5000万円ほどといわれたが、長野は、その退職金の一部を返上して大蔵省を去ることで、社会的制裁を受けたという形を整えた。