AIイラストが著作権侵害になる可能性はゼロではない

AIが描いたイラストが他人の著作権を侵害する場合として考えられるのは、生成されたイラストが著作物にあたることを前提に、それが他人の著作物の複製・翻案にあたる場合です。そうすると、AIが描いたイラストが、複製・翻案の要件(①依拠性、②同一性・類似性)を満たすかが問題になります。

写真=iStock.com/Olivier Le Moal
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①依拠性については、AIがイラストの生成に際して参照しているのは、著作物を構成要素たる情報に分解したものであって、特定の著作物それじたいではないことから、依拠性を否定する見解もあります。しかし、極端な話、特定のイラストレーターが創作したイラストすべてをAIに学習させた場合でも、依拠性が否定されてしまうのは違和感があります。

依拠性が肯定されるとして、AIが描いたイラストから、学習元の特定のイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得できるような場合(元のイラストとまったく同一の場合や、微細な表現の違いしかない場合など)には、②同一性・類似性も認められ、AIが描いたイラストは、学習元のイラストを複製・翻案したものとして、学習元のイラストの複製権・翻案権を侵害していることになります。したがって、著作権侵害が生じる可能性はゼロとは断言できません。

なお、AIにイラストを描かせる場合、特定のイラストレーターの画風に似ているものが生成されることも多いですが、画風が似ているだけの場合(複製・翻案の要件を満たさない場合)には、著作権侵害にはなりません。

ここからはAIイラストにまつわるよくある質問を見ていきましょう。

【Q1】仕事でイラスト制作を請け負いました。しかし、忙しいので、AIに描かせて、自分の仕事だと言って報酬を受け取ってもよいですか?

【A1】自身が描いたイラストをAIに学習させて別のイラストを描かせる限りでは、少なくとも他人の著作権を侵害するおそれはありませんし、発注者としては、要望を満たしたイラストが納品されさえすれば、特に問題はないようにも思えます(ただし、AIの利用規約において、商用での利用が禁じられている場合などは、それに従わなければならないので、注意しましょう)。

しかし、そもそも、AIに描かせたイラストに著作権が生じるかどうかははっきりしないところです。仮に著作権が生じない場合、誰もが自由に利用できてしまいますから、そのようなイラストを納品されても発注者としては困ってしまうでしょう。ですので、あくまで、AIに描かせたイラストは資料にするに留めるか、これをベースに創作的な表現を加えて、明確に自身の著作物としてイラストを創作するのが無難です。また、無用なトラブルを避けるためにも、AIに描かせたものをそのまま納品するのであれば、発注者の承諾は得ておいたほうがよいでしょう。