貿易収支の悪化などから、日本が経常赤字に転落するのではないかという危惧もあります。それを強調したのが、1月3日の日経朝刊に掲載された枝野幸男経済産業大臣の発言でした。記事では「経常赤字に懸念」という小見出しのあとにこうありました。〈(編集部注:枝野大臣は)貿易収支の悪化や高齢化に伴う貯蓄率低下などで経常収支が赤字転落するシナリオには強い危機感を示した。欧州債務危機に絡めて「日本も国債を国内で消化できなくなる」と指摘。成長戦略とあわせ、消費税増税による財政再建を進めることが「政治の責任だ」と強調した〉

私は、この発言には、経済産業省の官僚の思惑がかなり働いているのではないかと睨んでいます。原発の再稼働を狙う経産官僚にとって、「経常赤字による財政危機の恐れ」というのは、原発再稼働の格好の理由になります。そうでなければ、「脱原発」を明言していた枝野大臣が、経常赤字に強い危機感を示した理由が理解できません。

今度は「国際収支」のうち、「直接投資」の項目を見てください。直接投資とは、「他国の企業に対して永続的な経済関係を築くための投資」を意味し、外国企業の株式を10%以上取得した場合などが計上対象となります。国内企業の対外投資はマイナス、海外企業の対内投資はプラスで表示します。マイナス=直接投資が減っている、という意味ではなく、対外投資が対内投資よりも多い、という意味です。2008年度はマイナス10兆1087億円ですから、その分だけ、対外投資が多かったということです。この数字が、大震災のあった11年3月にはマイナスが1527億円まで落ちたあと、高水準のマイナスが続いています。

これは何を意味するかというと、再び、日本企業が海外へ出ていく動きが加速したということです。震災の影響でサプライ・チェーンが寸断されたこともそうですが、もっと大きな理由が円高です。それには2つの意味があります。一つには輸出企業の採算が大幅に悪化したため、出ていかざるをえないという守りの意味。もう一つは円高を利用して海外進出を進めようという攻めの意味です。いずれにしろ、円高が海外進出への呼び水になりました。

この直接投資の数字が今後どうなるかは、日本経済に大きな影響を及ぼします。数字のマイナスが拡大していくと、企業が海外に出ていくということですから、余計に日本経済が落ち込み、産業の空洞化が進む。それとともに雇用が減り、税収も少なくなりますから、厳しい財政にはさらに大きなダメージとなります。

まとめると、日銀の目論見通りに消費者物価が上がれば、利ざやが稼げますから企業業績が上がり景気がよくなる。さらに円安になれば企業は対外投資よりも対内投資を増やしますから景気はどんどん改善していく。逆にデフレが続けば、企業業績を圧迫し、国内産業の空洞化を招く。そういう仮説を立てられます。