「設計も建築も自分でやった。コストは150万円だけ」

こうして道具の使い方も知らなかったズブの素人の手によって、最初のツリーハウスが完成した。名称は「スパイラルツリーハウス」。美しいフォルムのスパイラルツリーハウスの階段は、「伝説の螺旋階段」と呼ばれている。

通常のツリーハウスは樹上にあるものの、建築物は地面から支える構造になっている。しかし、このスパイラルツリーハウスは木の上からワイヤーで吊るす形状で、これまでは必須だった斜めの幹からのつっかえ棒も不要に。おかげでホストツリーに巻きつく螺旋階段で人が上がれるようになった。こうした仕組みも菊川さんが独自に考案した。

大アカギのグネグネとした有機的なフォルムと、幾何学的なツリーハウスが融合して、自然の力強さを強調している姿は、まさに、お互いがお互いを高め合っている。「デザイン力×技術的革新」「世界一かっこいいツリーハウス」と賞賛されるゆえんだ。

「設計も建築も自分でやったので、かかるのは材料費や道具代だけでした。スパイラルツリーハウスにかかった費用は150万円いくかどうかですね」

写真提供=ツリーフル
制作にかかわった長女の万葉さんと

水の調達にも苦労した。最も近いコンビニでも車で30分はかかる山の中だ。水道が通っているはずがない。最初は、向こう岸の山から引いていたが、大雨が降ると水が茶色く濁るので、井戸を掘る決断をした。「川の近くだから、掘っていけばきっと水が出るだろう」。そう考え、矢倉を組み、手掘りで掘っていったら3.5メートルの地点で水が出た。紫外線を通す機械でUV殺菌をしていて、筆者も飲んだが、とてもおいしい水だった。

作り始めてから、約8年。ツリーハウスはできたけれど、旅館業の許可が下りなかった。ツリーハウスとホテルとしてのインフラはできたが、難題はまだ残っていたのだ。

ツリーハウスをホテルにするためには旅館業の許可が必要だが、生きている木を建築物の一部に使っているので、これが違法建築だと申請が下りなかったのだ。クリアするためには、「ツリーハウスは、建築物ではない」と証明する必要があったが、いろいろと調べていくと、「立木りゅうぼく法」という1909年にできた古い法律にたどり着いた。

生きている木と土地は別の物と考え「生きている木は不動産として登記できる」というものだ。そこで大アカギの木を不動産として登記し、その木の上の工作物だから「建築物にはならない」ということが、理論的なバックアップとなりようやく認められた。

宿泊物としての基準もクリアできたので、これで旅館業スタートの見込みが立った。旅館業の許可が出るまで2年。それを含め、全制作期間は、2014~2021年の足かけ7年8カ月。2021年夏にようやく開業にこぎつけた。

撮影=山本貴代
このスパイラルツリーハウスを含め、ツリーフルでの宿泊費(最大6人)はトータルで1泊税込15万円~。