「個人としてファンを作る」

では、そのような中で新聞業界はどうすれば良いのか。答えは簡単だ。関心が持たれていないのであれば、関心を持ってもらう努力をすれば良い。

しかし、言うは易く行うは難し。どうすれば関心を持ってもらえるのだろうか。私はその方法の1つが「個人としてファンを作ること」だと考えている。

「デジタル化」は、紙からデジタルへ、単に媒体が変化しただけではない。デジタル化によって誰もが自由に発信できるようになり、個としての発信が注目されるようになった。そうした中でインフルエンサーという存在が生まれ、SNSを通じて影響力を発揮するようになっていった。

無料の情報であふれるネット社会だが、新聞業界のように誰もが儲けられていないわけではない。一部のインフルエンサーは有料のマガジンを多くのファンに買ってもらい、収益を上げている。また、クラウドファンディングやオンラインサロンを通じてファンとのつながりを強め、事業を成功させている人もいる。

つまり、ネット社会は魅力ある個人がインフルエンサーとなってファンに支えられるような場となっているのだ。その中で新聞社が情報を売るためには、個人の発信を重視してファンを作っていく必要があるのではないか……。

私が新聞記者をしながら個人を全面に出すYouTubeチャンネルを立ち上げたのも、そのような発想からだった。個が主流となった今、新聞社という組織が持つ老舗のブランド力は、残念ながら見向きもされなくなっているのだ。

一方的な発信の場から視聴者参加型のサロンへ

幸いにして、新聞社に勤めている記者には、世の中を揺るがすような大事件から、政権中枢の権謀術数まで、さまざまな現場を取材して鍛錬を積んだ魅力ある人たちがたくさんいる。その記者たちが取材の舞台裏を赤裸々に話すだけでも、興味関心を持ってもらうことは十分にできるだろう。

私も2019年に首相官邸を取材していた際、今は亡き安倍晋三元総理が「桜を見る会」の前夜祭で支援者を接待していた問題について厳しい質問を投げかけ、その様子をツイッターの記者アカウントで発信した。

その結果、フォロワーが数千単位で増え、退職時には約1万8000のフォロワーを有するまでになった。現場の記者としては珍しい数字であり、報道に興味関心を持ってもらえた例と言える(なお、私の質問に対して安倍氏は前夜祭の総額を示した資料は「ない」と断言したが、後にこれは虚偽であったことが明らかとなり、任意の事情聴取を受け、秘書が略式起訴されることとなった)。

一方で、ただ単に情報を発信するだけでなく、読者、視聴者、ユーザーとのつながりを強める必要もあるだろう。

ファンを作り、定着させるためには、顧客とのエンゲージメントを高めることが重要だと言われている。私はYouTubeの生配信を通じて実践したが、例えばオンラインイベントなどを通じて記者と交流する場を作れば、そこにお金を払ってくれる人は出てくるだろう。

ここまでは新聞社でも徐々に取り組み始めている内容だが、私はさらにそこから一歩進んで、報道自体をユーザーとのコミュニケーションの中での営みにしていく、つまり報道のオンラインサロン化を進めていこうと考えている取材対象を決め、進捗を報告し、記事を書く。こうした取材に関する編集会議をYouTube上で有料会員限定で生配信する。

会員にも意見を言ってもらい、報道に参加してもらうのである。報道を単なる情報から体験へアップデートしようという試みであり、既に参加者とは活発な意見交換を始めている。