ホンダに息づく「エンジニア魂」

なぜ、ホンダのエンジニアたちには、そうした資質が根づいているのだろうか。

その答えは、ホンダの「エンジニア魂」が息づいているからだ。

「ホンダスピリットというのは、挑戦です。本田宗一郎さんは、とにかく挑戦をするわけです。人の物真似はしない。数々の失敗が成功を支える。チャレンジして失敗することを恐れるより、むしろ失敗を恐れて何もしないことを恐れなさい。その言葉には、すごく共感しますよね。どんなことにもつながります」

そう話すのは、2002年から2008年までホンダエンジンでF1を戦い、同じホンダエンジンで2017年と2020年にインディ500で優勝した佐藤琢磨である。

「ホンダのエンジニアたちは、一度も諦めないですよね。チャレンジが大きくなればなるほど、絶対にそれを成し遂げるんだと。逆に言えば、目標が大きいからこそチャレンジするんだという精神を、みんなが持っていました」

1987年に日本人初のF1レギュラードライバーとなり、1987年から1988年のロータス、1991年のティレルと計3年間をホンダエンジンで戦った中嶋悟は、本田宗一郎の薫陶を直々に受けたという。

「まず会ったら『エンジンどうだ?』という話になったのは間違いないですね。とにかく向上心、上を目指す気持ちをすごく感じましたね」

2番でいいやと言ったらダメ

中嶋は、ホンダのエンジニアに伝えたい思いがあった。

「2番でいいやと言ったらダメなんですよ、やっぱり。1番を目指して、結果がどうかということは別問題だと思うんですよね。達成感を得て、喜びの顔を見せる日が来るために考えて、行動して、つくり上げるということじゃないですかね」

ホンダの社長を退いてからも、本田宗一郎は開発現場に顔を出していた。失敗を恐れずチャレンジし続けることを、現場でエンジニアに説き続けた。

その元にあるのは、本田宗一郎自身の言葉である。

「人がやらないことをやるのが発明、創意工夫である。決して、人が歩いた道、人から教わった道にそれはない。今までなかったものを考えたときに、発明、創意工夫なのであって、その前にはひとつもないのだから、誰にも教わるべきものではない。いろいろな困難な問題があると思う。困難な問題だからこそ、失敗がある。失敗があるから、それを成し遂げることによって発明が成り立つ。結局、人の歩いた道にはいいものはないと私は言いたいんですよ」