名実ともに頂点に立ったホンダのパワーユニット

2022年シーズン、ホンダの名はサーキットにない。

ホンダが保有する知的財産権を利用する権利を得るかたちで、パワーユニットは新設されたレッドブル・パワートレインズに継承された。そのパワーユニットを、レッドブル・レーシングとスクーデリア・アルファタウリに供給している。

ホンダは、従来の二輪に加えて、四輪レース活動の機能も統合した新生ホンダレーシング(HRC)を通じ、レッドブルから委託を受けるかたちでパワーユニットの製造、組み立て、供給、マネジメントを担う。

現行のパワーユニットは、2025年まで新たな開発は凍結されている。もちろん、とくに信頼性やマネジメントは、2021年バージョンからレギュレーションの範囲内で手を入れることは可能だ。ホンダは実際、信頼性やパワーを上げて2022年シーズンに臨んでいる。

本稿を執筆している時点(2022年9月11日決勝のイタリアGP)までのレッドブルの戦績は、16戦12勝(フェルスタッペン11勝、ペレス1勝)と圧倒的な強さを誇る。コンストラクターズポイントは545ポイントで、2位のフェラーリの406ポイント、3位のメルセデスの371ポイントを大きく引き離している。

これまでのところ、2021年シーズンとは比較にならない強さである。

他を圧倒する勝ち方は、1988年にアイルトン・セナ、アラン・プロストを擁したマクラーレン・ホンダ時代に16戦15勝を達成した時代を彷彿させる。

ホンダ製パワーユニットは、名実ともについに頂点に立った。

ホンダは再びF1に参戦するのか

2022年シーズンから車体のレギュレーションが大幅に変わり、メルセデスの開発がうまくいかなかったという要因があるにせよ、少なくとも、メルセデス、フェラーリを含めた三つどもえの戦いができる位置まで到達したのは間違いない。

「私としては、いいことじゃないかと思うんですよ。ホンダが参戦することで、レースそのものが面白くなったから。F1にとって、ずっと勝ち続けるチームがあればいいというものでもない。フェアに戦いながら、本気の技術競争が行われ、ライバルチームが鎬を削る。その結果、勝ち負けの予想がつかないぐらい面白くなっているのは、歓迎すべきことじゃないでしょうか」

そう浅木は言う。

しかし、これは偶然ではなく必然だった。オールホンダの底力によって、パワーユニットの速さと強さが洗練されたからだ。いま、圧倒的な力を持つパワーユニットを開発したホンダの名がサーキットにないのは、寂しさを禁じ得ない。

NHK取材班『ホンダF1 復活した最速のDNA』(幻冬舎新書)
NHK取材班『ホンダF1 復活した最速のDNA』(幻冬舎新書)

2022年8月2日、レッドブル・パワートレインズとHRCは、2025年まで業務委託を延長する契約を締結した。まだしばらくは、ホンダが開発したパワーユニットがF1のサーキットを走ることが決まった。ホンダの技術者がF1に関わることも決まった。

ホンダはこれまで参戦と撤退を繰り返してきた。F1のパドックでは、「ホンダはいつ帰って来るの?」とか、「調子がいいから撤退するのをやめるのか?」といった話題も飛び交う。

もちろん、ホンダがF1に復帰する話はない。

「でも、ホンダにはいつの時代も、若い人たちがエネルギッシュにチャレンジングに物を言える企業文化があります。私は、そんな流れがまたいつか来るのではないかと信じていますし、個人的にはそういう時代がやって来ると思っています」

【関連記事】
「BEV化が進むほど中国の一人勝ちになる」EVかガソリン車か、2023年に起こる不都合な大問題
EVシフト全盛の時代に直6ディーゼル車で勝負する…ついに始まってしまったマツダの超逆張り戦略
有能とは「仕事を増やさない」人である…トヨタ社員が単純作業ほど厳しくチェックする納得の理由
「私は聞いていない」という上司はムダな存在…トヨタ社内に貼ってある「仕事の7つのムダ」のすさまじさ
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ【2021下半期BEST5】