店舗以外でもできる4つの事例

一部業種だけの話でしょ、と片付けるのはあまりに早計だ。「横の関係で育てる」類似の取組が実は社会のそこかしこで同時多発的に発生しているのだ。例えば以下のような若手育成の事例を確認することができる。

○ 大手百貨店において若手社員十数名のみがメンバーとなって企画した特別展示スペースが開催され、若年層も含めたこれまで以上の幅広い層の来場者を集めた。
○ ネット上での広報活動を入社2、3年目の社員のみで構成するチームで実施。YouTubeチャンネルの再生数や登録者数が著しく増加するなど大きな成果を挙げた。
○ 限定20台のクリスマスケーキの企画を入社2年目の社員2名に任せた。他社とコラボレーションすることを考え実施し、数万円という高価格だったにもかかわらず即完売した。
○ 組織のトップ1名と20代の若手が10名ほどでチームを組み、社会全体や組織の将来像について提言をまとめ発信したところ、大きな反響があり大手メディアなどに取り上げられた。

こうした若手だけでプロジェクトを組成して短期間で成果を出させる取組を行う組織が出ており、関係負荷をかけずに質的負荷をかけるための「横の関係で育てる」様々な試みが始まっている。

3つのポイント

いま萌芽ほうが的に起こっている事例の共通項から、「横の関係で育てる」手法の特徴を3点に整理しておこう。

①若手社員のみ、もしくは若手社員が極めて多いチームを編成する
②担う業務は漠然とした日々の業務ではなく、特定の目的及び期限のある業務とする
③成果が可視化しやすい業務とする

つまり、若手社員が横の関係で育つ環境を職場に作り出すためには、若手のみのチームで、特定の目的を達成するために、成果が見える業務を担わせることが肝要だ。

古屋星斗『ゆるい職場』(中央公論)

上司・先輩がたくさんいて若手社員がそれに粛々と従う状況では関係負荷が高くなりすぎ不要なストレスを与えてしまう。また、特定の目的がなければ、ゴールが不明確となり若手が努力する方向性が曖昧になり短期的な成長には繋がらず、十分な質的負荷をかけることはできないし、無闇に大きな業務を若手に担わせることは組織にとってメリットよりもリスクが大きいのは当然である。さらに、成果が可視化できなければ、なにが良くなにが悪かったのかについて、組織が若手に明確な根拠を持ってサジェストすることも難しいし、もちろん若手側の成長実感も乏しいものとなってしまう。

こうして集約すれば、「横の関係で育てる」アプローチには実は、自由と責任の両方が必要であることがわかる。自分たちで考える・考えられる環境だけでなく、明確なミッションに成否が明らかな業務が組み合わさることで、初めて「関係負荷なく質的負荷が高い」育成環境が成立するのだ。

ゆるい職場時代、データを分析したうえで理論的に必要性が発見された「関係負荷はないが質的負荷が高い」育成方法。紹介した「横の関係で育てる」手法が、これまでの上下関係での育成で達成できなくなった部分を補い、そして育成の幅を拡張していくだろう。

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