新入社員だけがスタッフの「研修店舗」

しかし、突破口になりそうな事例が生まれている。筆者が注目しているソリューションのひとつに、「横の関係で育てる」がある。

一部の外食チェーン店で取り組まれている「新入社員だけがスタッフを務める研修店舗」はその具体例であり、実際に離職率が急激に下がったという報告もある。新入社員だけで運営される研修目的の店舗であるが、実際にその店は他の一般の店と同様、お客さんが入ることができる。ただ研修目的なので通常の料金よりも少々安い値段設定となっている場合が多い。

ネットで検索すれば、各チェーン店の研修店舗はすぐに見つけることができるが、一般のお客さんが普通に入ることができるため、むしろあまり意識せずに入店し利用している人が多いかもしれない。

筆者もこうした外食チェーン店の研修店舗に何度か足を運んだことがあるが、店員さんが全員初々しい新入社員らしき若者であるという点以外、特に大きなトラブルが起こったり、店員さんが店長や先輩らしき人から叱責されていたり、といったシーンに出くわしたことはない。

レストランで働く若者
写真=iStock.com/kazuma seki
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「横の関係」で育てるアプローチ

「新入社員だけがスタッフを務める研修店舗」は以上のような特徴を持つ。ただし、そういったものがあるのか、という感想だけで終わるのは非常にもったいない。この育成手法には現代の職場環境に適応したメリットを多数備えているのだ。

離職率が大きく下がったという報告もあり水面下で広がっているこの手法の、最も大きなメリットは、この育成手法がまさに「関係負荷なく質的負荷を与える」方法であるということだろう。

店員が新入社員しかおらず、その職場において上下関係は存在しないかかなり希薄である。職場に(責任をとる立場で、困ったときに相談できる管理職はいるが)自分と同じ業務を遂行する“先任者”がいないのである。このために、起こることが重要である。その職場の“正解”である過去の経験知が先任者から提供されないのだ。この状況に直面した場合、当然ながら若手は自分で考えざるをえない。職場における日々起こる問題・課題に対して“正解”が指し示されないためである。

例えば研修店舗においては、どうすれば店の売上が上がるか、顧客満足度を上げられるか、クレームにどう対応するか、どうすれば作業を効率化できるか等々、大小の課題を考えるのはその店舗にいる新入社員の同期だけなのだ。そしてその職場では上下関係による“正解”の押し付け、理由のわからない理不尽な指示といったことが起こる可能性は構造的に極めて希薄である。この状況を作り出したことが、関係負荷なく質的負荷を与える結果となっているのだ。これを上下関係で育てる、ではない新たなアプローチとして、「横の関係で育てる」と呼びたい。