「若者のご機嫌取り」では解決にならない

仕事の関係負荷なく質的負荷だけをどう上げるか。通常、質的負荷を上げようとすると関係負荷も上がってしまうが、どのように切り離すのか。

ストレッチな仕事を、理不尽さや人間関係の過剰なストレスという若手の成長を阻害する要素をなくして、いかに与えていくかというポイントである。先述の通り、実際に現状を分析すると、質的負荷(ストレッチな仕事)と関係負荷(人間関係の過剰なストレス)の間には強い相関が存在しており、片方が上がるともう片方も上がってしまう関係がある。切り離すことが難しいのだ。

従来の職場での育成アプローチはこの性質を持つために、離職にも繋がる関係負荷を下げようとすると、質的負荷、ストレッチな経験も同時に低下してしまう状況を引き起こしている。この状況がある以上、若者のご機嫌取りのようなその場しのぎの対応が繰り返されてしまう。

さて、従来の育成方法では職場の上司や先輩から“教える”というスタイルをとるという共通点がある。この方法では、上司や先輩が蓄積してきた業務における経験知に基づく“正解”があり、その正解を様々な方法で伝達していくというアプローチをとる。

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上から「教える」やり方には限界がある

もちろん、客観的に最短で正確、最適な方法論が確立している業務は少なからずあり、この方法論を全て否定する必要はない。基礎的な知識があってこそ発明やイノベーションは生まれるのであるから、当然である。

ただし、ゆるい職場において、上司や先輩層が蓄積してきたこの経験知を伝達するアプローチだけでは限界がある。職場における知識伝達の時間的制約が非常に強くなり、コミュニケーション法も変化した現状において、伝達量がどうしても相対的に少なくならざるをえないためである。

端的に言えば、職場に朝から夜までいてともに顔を突き合わせて働き、一日に何回も何回も上司から叱責しっせきされ、仕事後も一緒に飲みに行き熱い“仕事論”を語る上司がいた10年程前までの日本の職場を想像していただきたい。こうした職場における上司・先輩から若手への知識のシンプルな伝達量を超えることは、現代の職場にできるであろうか。