なぜ研修の地にイタリアが選ばれたのか
アントレプレナーシップ(起業家精神)という点ではイタリアはお世辞にも優等生とは言えない。日本と同様に古い産業が今も幅を利かしており、世界を席巻するようなスタートアップが生まれにくい。
ところがUSASBEはイタリアに白羽の矢を立てた。田舎での起業を意味する「ルーラル起業」を研修テーマにしたからだ。
ルーラルという点でウルバーニアはぴったりだ。人口はわずか7000人で、周囲は緑豊かな丘陵地帯。街中では家族経営のカフェやレストランが石畳の道沿いにテーブルを並べ、お年寄りがおしゃべりしている。その横で猫が昼寝。すべてがのどかだ。
語学学校の枠を飛び出した「2代目社長」
テーマがルーラル起業ならば、現地のホスト役は誰か。「ルーラル起業家」である。
ジョバンニ・パゾット、42歳。イタリア人らしく陽気で、あか抜けていておしゃれ。田舎暮らしをしているというのに、「ファッションの都」ミラノを闊歩する伊達男のように見える。
ミラノ生まれウルバーニア育ち。2010年に家業の語学学校「チェントロ・ステゥーディ・イタリアーニ」を継ぎ、最高経営責任者(CEO)として経営全般を見ている。地元では有名人であり、彼を知らない人はいない。
言うまでもなく、片田舎で家業を継いでいるだけでは単なる中小企業オーナーであり、珍しくも何ともない。
パゾットはいわゆる「ベンチャー型事業継承」によって「第二創業」を成し遂げている。ルーラルであることを競争上の優位性として再定義し、イタリア語とイタリア文化を生かしてイノベーションを起こしたのだ。
結果として、チェントロはもはや田舎の語学学校という枠には収まらない。世界各地の大学とつながるネットワークを築き上げており、パゾットの言葉を借りれば国際的な「大学ハブ」だ。1985年の設立以来、累計で1万6000人以上の留学生を受け入れている。
「チェントロ・ステゥーディ・イタリアーニ」という名称自体が語学学校以上の存在であるということを示唆している。日本語へ直訳すると「イタリア語学校」ではなく「イタリア研究センター」となる。
パゾットは地域に深く根を下ろしているのはもちろんのこと、語学学校から大学ハブへの転換をテコにグローバル化を加速させている。ルーラル起業家であると同時に「アトツギ(跡継ぎ)ベンチャー」経営者だ。