これからの車は“スマホ化”する?

「晴れた日だけでなく、雨の日でも夜でも検知できるようになっています。どんどんレベルアップしています。一方で、お客さまに買っていただいた車はその時点で進化が止まっています。それなら昔、トヨタが売った車の安全装備のアップデートをしよう、と。

今までトヨタではほとんどそうしたサービスをやっていませんでした。

テスラはOTAと呼ぶOver The Airでソフトウエアだけをアップデートしています。われわれはソフトウエアだけでなくてハードも一緒にやります。センサーやカメラを変える。メモリを増設する。それには多くの内装部品をはがして、ワイヤーハーネスを入れ直さなければいけない。

これを前提にすると、設計段階から車のアップグレードを見越すことが必要になってきます。

車の進歩はいろいろありますけれど、今後はアップグレードしていく車が主流になっていくと思います。

よく車は『スマホになる』と言われていますが、僕らは『スマホじゃなくてパソコンだと思ってください』と。パソコンならメモリを増設したり、CPU、ハードディスクを後から付けたりといろいろやることが当たり前になっています。それと同じでかつ、ソフトウエアのアプリも入れていく。

このサービスは世界で初めてなんですけれど、キラキラ企画ではなく、現場のお客さまからの要望なんです」

会議中も2、3人は工場から実況中継

KINTO FACTORYの企画を考えたのは現場でした。

小寺さんたちはトヨタの工場へ行って、センサーやカメラを増設するためにはどんな作業が必要かを実際に目で見てみたのです。すると、車の配線部品、ワイヤハーネスを取り出したり、通信通路を変えたりするのが非常に手間のかかる作業だとわかったのです。

もちろん、それまでにも頭では理解していたのでしょうが、実際に工場へ行ったら、ワイヤハーネスの交換は車を1台作るのと同じくらいの労力がいることに納得したと言っています。

「それならば最初からワイヤハーネスにさまざまなコネクターを取り付けられる仕様にすればいいのではないか」

そういう考えも現場で出てきました。以後、アップグレードする車の企画が現実になっていったのです。

小寺さんは工場現場での経験を思い出して言いました。

「企画は工場で詰めることにしました。紙に書くより、現地現物で確認することにしたんです。現場で会議もやりましたし、本社で会議している時も2、3人のメンバーは工場からスマホで実況中継する形式にしました。ものづくりの会社ですから、いくら会議室のなかで企画書を作っても、それはキラキラしたものにしかならないんです」