パニック障害はがんばってきた人に発症しやすい

私は、これまでの人生のこと、そして生活保護を受けるようになってからの、彼女の数年間のいきさつを聞いて、できる限りていねいに感想を返した。

「ええっと、たしか、ケースワーカーさんから勧められていらしたのでしたね。お話をうかがいましたが、とても大変な人生でしたね。ここまで、よくひとりでがんばってきたと思います。

それと今日は、よくいらっしゃったと思います。こういう話をお医者さんやカウンセラーに何度も話すのは、結構しんどいものですよね。とにかく、いままで、よくがんばってきたと思います」

私がそう言うと、中山さんは驚いたように顔をあげた。

植原亮太『ルポ 虐待サバイバー』(集英社新書)

「……がんばれとは言われてきたんですけど、がんばってきたと言ってもらったのは、はじめてのような気がします」

「大変な環境だったと思います。その環境を生きてきて、それからひとりで働いて、誰にも頼らずやってきたのだから、相当な苦労だったでしょう。

パニック障害というのは中山さんのように、たくさん苦労して、その苦労を堪えて、がんばってやってきた人に発症することが多いんです。よく、がんばりが足りないからだとご本人は言うけれど、その逆です。がんばれなくなる恐怖心から、より、がんばる。その恐怖があふれだして、発作になるんです」

私がパニック障害の説明をしている最中、彼女は静かに聞き入っていた。そして、やや震えた声で絞りだすように言った。

「自分のがんばりが足りないからだと思っていました……」

心の病は幼少期の環境が影響することが多い

がんばりが足りない。それは、被虐待者に共通する思考である。強い自己否定の結果だ。

彼女は、がんばれなくなることが怖かった。がんばり続けなければならない人生を送ってきたからだ。しかし心身は限界だった。となると、思うようにがんばれなくなってしまう。それで恐怖が襲い、パニック発作が起こる。

心の病というのは、苦しい生き方を無理にがんばって維持しようとしたことで発症する。その苦しい生き方は、必然的に苦しい環境から生まれている。だから、心の病の根っこをたどると、幼少期の環境が関係していることが少なくない。過酷な環境を生き抜くために必要だった適応の結果によりできあがった生き方には、とても強いがんばりと我慢が伴っている。それが、人生を支えている。

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