現時点で最強の仮想現実

いま、ゲーム体験はマイクロソフトに限らず業界の最前線となっている。特に『マイクロソフトフライトシミュレーター』は、技術面でもコラボレーション面でもすごい製品である。

『マイクロソフトフライトシミュレーター』Webサイトより

目標は、バーチャルな飛行機を飛ばすこと。しかも、リアルなフライトそっくりに手間暇をかけて、だ。

2020年版のマップは5億平方キロメートル以上とリアルな地球に匹敵するし、個別レンダリングの木が2兆本もあるし(1本を2兆回コピーペーストしたのでもなければ、数十本をコピーしたのでもない)、建物も億棟、さらには、実際地上にある道、山、都市、空港もほぼすべてあるのだ。すべてがリアルにそっくり。MSFSの仮想世界はリアルを高精度スキャンしたイメージがもとになっているからだ。

開発はXboxゲームスタジオだが、ビングマップの協力を仰いでいるし、無償で使えるオンライン地図の共同作業プロジェクト、オープンストリートマップスのデータも活用している。さらに、データをまとめて3D化したり気象データをリアルタイムに反映させたり、クラウドからストリーミングしたりしているのはアジュールの人工知能である。

マシュー・ボール『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』(飛鳥新社)

またXbox部門にはハードウェアスイートもあれば、世界一の人気を誇るゲームストリーミングのクラウドサービスも、ゲームスタジオもあるし、独自エンジン各種もある。

さらに、マイクロソフトは、2022年1月、中国を除く世界で一番大きな独立系ゲームパブリッシャー、アクティビジョン・ブリザードを750億ドルで買うと発表し(GAFAM史上最大の買収劇である)、その際、「この買収により、モバイル、PC、コンソール、クラウドにまたがるマイクロソフトのゲーム事業は今後一層発展するでしょう。また、アクティビジョン・ブリザードはメタバースの構築に必要な各種材料を提供してくれるものと期待しています」と語っている。

自社のOSやハードに特化しない戦略

『マインクラフト』の扱いを見れば、マイクロソフトをどう変えていこうとナデラが考えているのかがわかる。

今後の製品は、自社のオペレーティングシステムやハードウェア、技術、サービスに特化したものとしない(その組み合わせが一番という最適化さえしない)だ。

逆に、プラットフォームを気にせず使えるように、なるべく多くのプラットフォームをサポートする。オペレーティングシステムの覇権を失っていく中、それでも成長できたのは、こういう方針に転換したからだ。

マイクロソフトのシェアが縮む以上にデジタル世界が大きくなったからと言ってもいい。これはまた、メタバース時代にも対応可能な方針でもある。

関連記事
ネトフリがNHKと民放をぶっ壊す…突然導入される「広告つき割引プラン」の深刻すぎる代償
若者を「初回無料」で課金沼に落とす…深刻な「ガチャ依存」に陥る日本のゲーム会社の残念さ
「世界一の技術が日本にある」太陽光や洋上風力より期待が大きい"あるエネルギー源"
「DXブーム」に騙されてはいけない…「デジタル人材が不足している」と嘆く人が根本的に勘違いしていること
物価高の次は「米国の不景気」がやってくる…これから日本で起きる「中小企業の倒産ラッシュ」に早く備えよ