半導体受託製造世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場が開所し、年内にも量産開始が予定されている。半導体分野での日台連携はうまくいくのか。「超秘密主義」で知られるTSMCを30年間追い続け、『tsmc 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)を出版した台湾のベテラン経済ジャーナリスト、林宏文氏に、元産経新聞台北支局長の吉村剛史さんが聞いた――。
林宏文さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
林宏文さん

日本と台湾は半導体分野で互恵関係にある

――半導体ファウンドリー世界最大手のTSMCが熊本に進出したことが話題になっています。半導体を軸とした日台の産業連携は成功するでしょうか。

TSMCの日本進出には明るい展望を持っています。台湾と日本は連携するうえで最良の組み合わせでしょう。かつての日本は台湾に先駆けて半導体産業を発展させた先進国でした。米中が半導体戦争を展開する中でも日台の産業配置は完全といえるほど相互に補完しあっており、互恵関係、信頼関係が築ける間柄で、これが日台産業連携での大切な基盤です。

台湾と日本は、人々の心が強く結ばれています。例えば災害時の助け合いがそうです。最近でも今年元日の能登半島地震発生を受けて台湾ではいち早く義援金募金活動が展開されました。今回日本に来てみると、日本のコンビニでも4月初めの台湾東部地震の義援金募金を展開しているのを見て感動しました。

私の父親は少年のころ日本教育を受けた世代だし、私は、日本語は話せませんが、日本の漫画を読んで育った世代。双方の間にはこうした歴史的絆もあり、それが成功の後ろ盾となるでしょう。

日本・台湾とアメリカでは労働への考え方が異なる

――確かに熊本工場よりも先発だった米アリゾナ工場建設は遅滞していますね。

なぜTSMCアリゾナ工場建設は順調ではないのか。それは、米国とは労働に向き合う風土が違うからでしょう。労働者の規則順守姿勢は弱く、ご存知のように残業を嫌い、時間がくればパッと帰ってしまう。

TSMCは台湾でのやり方をそのままアリゾナに持っていこうとして、現地の労働組合との間で問題が生じてしまった。米国をよく理解していなかった。それが米国投資を順調に進められていない原因だと思います。どちらかといえば米国は製造よりも設計に適している。アジアこそ製造に長けており、日本、台湾、韓国、中国こそが、それを得意としていると思います。