台湾の半導体は日本のおかげで成長してきた
熊本では今年10~12月期に国内で現在最先端となる回路線幅12~28ナノメートル(ナノは10億分の1)の演算用ロジック半導体の量産開始を目指して準備が進む。同社は6~7ナノメートルの先端半導体を生産する第2工場の同県内建設も決定しており、こちらも年内建設開始予定で27年末稼働開始を目指す。
――半導体が戦略物資としての重みを増すなか、生産拠点を台湾一極集中から海外分散主義に転換したTSMCにとって、熊本工場はその成否を問う試金石となりそうですね。
私は1993年以来約30年間、半導体をテーマに取材してきました。93年当時はこの産業における台湾の規模は小さく、日本こそ世界的に突出した存在でした。その後日本は技術面で衰退しましたが、日本の半導体関連での装置や材料市場はまだまだ強さを保っています。
台湾の半導体産業は日本のサプライチェーンに助けられて発展してきたのです。TSMCと日本の投資プロジェクトであるJASM(熊本工場の運営子会社)は、いわば日台双方の長年の友情の象徴でもあります。世界的な半導体戦争や地政学的要因の下で台湾の半導体業界はどのようにして発展し、今日の位置に至ったのか。大いに注目して“成功”を確実にほしい。
日本が半導体産業の復興に懸命であるこのとき、台湾が日本との産業連携を後押しできる可能性に満ちていることを、多くの日本の友人たちに知ってもらうことが肝要だと思います。
TSMCは「王座」ではなく「顧客との相互発展」を目指す
――2月に行われた熊本工場の開所式で、TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が「人工知能(AI)の発展などに伴って半導体の需要は拡大すると予想され、新たな工場がさらに10ほど必要だとの見方もある」とも述べています。
昨今は米国が中国への先端半導体輸出の規制措置を強化している状況ですが、そういう点をとらえても台湾と日本が産業連携を深める好機だと思います。米国政府が提案する米日台韓による半導体供給網構想「チップ4同盟」というくくりがありますが、4者のなかで台湾のみ他者と違う点があります。それは、台湾がいかにこの分野で台頭しても、他者に取って代わって王座に座る思惑はないということ。
顧客との協力を通じ、相互の発展を望むのが台湾スタイルです。通常なら台頭したところは王座を狙って他者と衝突するでしょう。中国がそうです。しかし人口約2300万人、日本の九州程度の広さという規模の小さな台湾は、政治的にも国際的地位という点でも立場は弱い。同じ船に乗って相互の産業発展にひたすら注力するような、世界の顧客にとって共存共栄をもたらすよき友人でありたいと願っているのです。