AIに不可欠なHBM分野で韓国が独走中

ここへきて、世界的な生成AIの急成長に伴い、世界の半導体産業に重要な変化が出ている。具体的には、中央演算装置(CPU)から“画像処理半導体(GPU)”へ需要は急速にシフトしている。メモリー半導体分野で、NAND型フラッシュメモリーの需要回復に時間がかかる一方、AIに不可欠な“広帯域半導体(High Bandwidth Memory=HBM)”の需要が急拡大している。

報道陣に公開されたラピダスの半導体工場の建設現場=2024年4月26日、北海道千歳市
写真=時事通信フォト
報道陣に公開されたラピダスの半導体工場の建設現場=2024年4月26日、北海道千歳市

この変化は、わが国の半導体産業にとっても重要な意味を持つ。現在、わが国にはHBMを生産できる企業が見当たらない。世界のHBM市場で独走状態にあるのは、韓国のSKハイニックスだ。メモリー分野で世界トップのサムスン電子、米マイクロンテクノロジーも相次いでHBMの研究開発や量産体制の強化を急いでいる。

今後、GPUとHBMを組み合わせ、より効率的にAIの学習を試みる企業は増える。それに伴い、半導体製造プロセスも変化する。回路の線幅をより細くする“微細化”に加え、複数の半導体を組み合わせる“チップレット方式”の重要度が高まる。

半導体需要はPC、スマホ向けからAI向けへ

需要に合わせて高性能なチップセットを、迅速に供給する体制を確立することが重要になっている。部材の供給や半導体製造装置の精度など、わが国が世界経済に果たす役割は増えるだろう。素材、精密機械などの製造技術を使って、GPUに加えHBMでも国内企業による量産体制の確立が実現するか否か、中長期的なわが国経済の成長に重要だ。

2022年11月、米オープンAIの“チャットGPT”の公開をきっかけに、世界の半導体業界の状況は大きく変わった。当時、テレワークの一巡などでパソコン向けのCPU、スマホ向けのチップやメモリーの市況は悪化した。一方、AI分野の拡大で最先端のGPU、HBMの需要が急増し始めた。

GPU分野で競争力を急速に高めたのが米エヌビディアだった。同社は、台湾積体電路製造(TSMC)の3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの製造ラインを使って、人工知能の深層学習に使われるGPUの供給体制を強化した。

GPUが役割を存分に発揮するため、データ転送速度の高いメモリーチップ需要も高まった。そのニーズにこたえたのが、2013年にHBMを世界で初めて生産した韓国のSKハイニックスだった。